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クレハテルツレヅレ
紅い葉の様な手…7

今となっては還らぬ日々である。

まだお家には御台所が健在で、幼い雪乃は病に伏しておらず、屋敷の中を所狭しと走り回っていた。その雪乃の後ろを更に幼い呉葉が着いて回り、遂には屋敷から飛び出し、村を駆け回り、山へと飛び込み遊ぶ。
毎日が賑やかで、皆の顔に笑顔が絶えなかった。

そんな穏やかな日々の中の秋のとある日。

夏の残滓も僅かとなり、代わりに冬の冷たい風の走りが姿を見え隠れさせ、木々は色を変える。
世界は新緑の緑を終え、紅へと移り変わり染まっていた。

「姉様ぁーー!
待って下さーい!」
「あはは……ほらほら、早くおいで、呉葉ぁ!」

丁度庭の手入れをしていた笹丸が、幼い二つの笑い声に振り向くと、呉葉と雪乃の二人が転ぶ様に駆けて来る。
手に持つ、落葉した紅い葉がひらひらと羽の様で、二人はまるで、秋の御使いの様であった。

ふっ……と笹丸から笑みが零れる。

二人は本当に仲が良い、まるで本当の姉妹の様であった。

だが……と、笹丸は屋敷の庭先まで駆けて来た二人を呼び止める。

「姫様、呉葉、お待ちなさい…」
「なに? 笹丸」
「なんですか? 父様」

笹丸は中腰となり、少し目線を落とす。

「呉葉。雪乃様は、このお家の大事な姫様なのだぞ? 軽々しく、姉様とお呼びしてはならぬと何時も言うておるであろ?」
「だって……お父様!」「だって、ではない。呉葉」

諭す笹丸に呉葉はいじける様に俯いた。

その二人の間に、ずいっと割りこむ影。雪乃である。





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あきゅろす。
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