クレハテルツレヅレ
臣籍降下2
轟っ!!
雪煙と、破片となった木材が飛び散り、舞い上がるのである。
その濛々と舞い上がる雪煙の中から飛び出すは、六孫王経基であった。
その額からは赤き血が一つの筋となりて、険しく睨み付ける両の眼の間を伝っていた。
雪煙から出でた経基を追い、鋭い巨大な錐が打ち降ろされる。
経基は身を捻りてかわし、手に持つ刀を力に任せて勢い良く叩きつけるのである。
刀の刃は既にぼろぼろで、斬る役目を果たさぬ有り様である。
経基は刀の本来の使い方を諦め、叩きつける事しか出来なかったのである。
刀が叩き付けられ様とも、錐はびくともせず、軽く払う様にして、悔しさに面を歪める経基を吹き飛ばすのであった。
どさりと雪に落ち、自ら体を回転させ、雪の上を転がりて余る勢いを逃がす。
晴れ行く雪煙から現れたるは蜘蛛の異形達を束ねている、化生である。美しい艶やかな女生の上半身に八つの紅い目、股間からは巨大な蜘蛛の体である。先程、経基を吹き飛ばしたのはこの化生の八つの脚の一つである。
時は承平九年二月。
経基は浚われた妻を救う為、並びに無念の内に倒れた家臣達の仇を討つ為、独り死力を尽くして異形の女主人と相対していた。
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