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小説 B
弁当  適当×真面目(天然)
木下敬史(きのしたけいし)×木村貴樹(きむらたかき)

side 敬史
 俺は、気まぐれな奴だと良く言われる。
適当に勉強して、適当に遊んで。
俺はいつも俺がしたいことをしたいようにしていた。

だから、誰かと遊ぶ日時をキッチリ決めることなんかしなかったし、それが当たり前だった。
逆に、俺に約束を取り付けたとしても、俺の気が向かなければ「約束」なんてないもの同然だった。
・・・まあ、そんな俺をわがままだとか、八方美人だというやつがいるのも知っていたが。

 だから、俺のあの言葉を、木村が本気にしたことに、驚いた。
自分と同じ男子高校生が言った
「自分にも弁当を作って来て欲しい」という言葉を、
実行するなんて思ってもいなかったのだ。

 木村貴樹の弁当は、いつも何種類ものおかずが入っていた。
俺の周りには、弁当を作ってくるという人間がいなかったから、木村は俺にとって理解できない人間だった。
「俺食べてみたい。作って来てよ。いいの?ラッキー約束な。」
そんな言葉は、社交辞令とでもいうのか、
それまで接点のなかった木村との会話は、知らずのうちに気になっていた弁当のことになった。

だがそれは、話し終わったら気にも留めないくらいのことだった。

 日曜の夜に飲み過ぎて、午後から学校にいった俺に、木村が渡してきた弁当。
普段なら、自分から俺に接触してくることなんてないのに・・・。
しかし、二日酔いもあって、今はいない誰かから預かったのかと思った俺は、
木村本人に「誰から?」と問うた。
木村は、少し目を見開いて、でもすぐに普段のポーカーフェイスに戻って
「弁当。昨日、約束したと思うけど。」と静かに言った。

俺は反射的に、「ありがとう、本気で嬉しい」などと・・・。
約束を忘れていたことを悟られまいと俺は、
無駄にテンション高く木村に話しかけていた気がする。


・・・本当は、弁当の礼を言った俺に、少し表情を綻ばせた木村をみて、妙に顔が熱くなって、焦ったのだ。


その5年後の俺と貴樹は、同じマンションの同じ部屋に住んでいたりする。
振り返ると単純に、同じカ行で席が近いのに、あまりにも話したことがない貴樹が気になって。
いつでも貴樹のこと見て、いつでも話しかけられるようにきっかけを狙っていたのだと思う。

今は、話しかければきちんと対応してくれて、感情もわかりにくいときもあるけど素直に出してくれるのだとわかるけど。
あの時の俺は、今考えても適当で、軽い人間だったから・・・。
貴樹みたいに人の言葉とか約束を大切にする人間に、軽く話しかけることができなかった。

貴樹にそういう目で見られているという意識がそうさせたのだと思う。



なんて話を、昼飯を作ってくれている貴樹の後ろからついて回るようにして話した。
貴樹は、軽く合図ちを打ちながらもどんどん料理を進めていく。

俺の為の料理。

実は貴樹は朝が本気で弱い。
高校の時は、無理に早起きしていたらしい。

理由を聞いて、貴樹らしいなと思う。
貴樹の家族は、揃って朝が弱い。
みんな真面目だから、「遅刻」ということはないが、身だしなみよりもまずは電車に乗り遅れないこと、
食事よりもとりあえず準備らしい。

朝が弱い、というのは、木村家にとっては「起きれない」ことではなく、「起きても動けない」ことらしい。
動きが遅いからベッドから出るのも準備にも時間がかかる。
時計をみて無理やり体を動かして遅刻しないために動くのだ。
貴樹いわく、ゆっくりでも食事を食べたら頭も体も動くようになるからと、家族の朝食そしてついでに弁当も作り始めたらしい。
正直、貴樹をもらうのに一番反対された部分は底だった。

本当は、男同士という関係を言われるかと思ったが、
貴樹は本当に家族譲りな性格をしているらしい。
まじめなのだが、かたいわけではない。
表情の見えずらさがあるが、感情の起伏が少ないわけではない。
一方で、隠そうと思った時のポーカーフェイスは上手いから、難しいところがあるけど。

とりあえず、貴樹の親公認で、今も貴樹の手料理を食べられるのは、
あの時弁当を作ってもらったからだと思う。

良かった俺。


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