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お手軽で、便利
睦月 優花はいつだって、皆のお人形なのだ。
(睦月 優花の場合)
『優花は楽だわ。そこらの女とは別格』
ベッドの上で、上半身裸のまま煙草を蒸かす、想い人…孝太。会社の同僚で、特定の彼女を作らない、良く言えば自由人。対するあたしも特定の彼氏を作らない筈だったのに、孝太に心を奪われてしまった。どこが好きかと聞かれれば答えられないけれど、孝太になら何でもしてあげられるとさえ思うぐらいに惹かれている。
『重いのが嫌いなだけだよ』
『俺も。本気になられるとか一番迷惑だよな』
そう。孝太とは考え方が似ていて、親密になった。お互いが多数との疑似恋愛を楽しんで、一人を大切にするなんて有り得なかった。その場限りの恋愛、その場限りの恋人…その筈だったのに、いつの間にか孝太に惹かれて、孝太以外の人間と身体を重ねる事が出来なくなっていた。
『まあでも、身体の相性が良いのは優花。間違いないわ』
『有難う。あたしも孝太との相性が一番だよ』
孝太の胸に頭を預けて、甘えるように擦り寄ると、孝太はあたしの髪に指を絡める。それが気持ち良くて、ゆったりと孝太の体温を全身で感じ取る。この時間、この瞬間だけは孝太の全てがあたしのものなのだと確かめる為に。
『優花の身体って直ぐ冷たくなるよな。ヤッてる時は温かいのに』
『元々冷え性だからかな…、それか…』
孝太の熱が足りないのかも、と誘惑の視線を送ると孝太は厭らしく笑って、灰皿に煙草を押し付ける。その吊り上がった唇があたしの唇と重なると、孝太の煙草の匂いが鼻を掠める。少しだけ苦味のあるそれは、まるで媚薬のようにあたしの身体を痺れさせる。孝太のキスはあたしの身体を熱くさせ、身体中が孝太を求め始める。嫌らしい音が室内に充満し始めると、その先は何かを考える余裕なんてなくなるぐらいに頭が真っ白になってしまう…
『こ……たァ…、あ…あァ…』
『優花…』
孝太の指と舌が身体中を這い回って、その場所からまた熱が生まれる。全身を隈無く愛撫する孝太を見ていると、好きだとか恋愛感情なんて本当にどうでも良くなって来る。唯、互いの熱と快感だけを求める、本能の赴くままに互いを求めている…謂わば唯の雄と雌のように、唯快楽を求める。
『っ、あ…んああ…ッ』
『優花…もっと、もっと声聞かせて…』
孝太の指はあたしの全てを知っている。どこが気持ち良いのか、どこに触れればあたしが鳴くのか…敏感なところだけじゃなくて、この指は全てを愛してくれる。それだけで十分だ。孝太があたしのものにならないのなら、せめて孝太の指だけがあたしを愛してくれるのなら…
『は…あ…あァ…んっ』
『優花、優花…っ』
何度も名前を呼んでくれる。孝太と繋がっている時は必ず手を握ってくれる。疑似恋愛だけど、それだけで幸せを感じる事が出来る。身体に跡を残して良いのは孝太だけ、何も覆う事もなく吐き出して良いのは孝太だけ。恋をするっていうのはこういう事なのだろうか。何をされたって許す事が出来る。
今のあたしは孝太に何をされたって構わない。
この、温かい孝太の指があたしに熱をくれるだけで満足なのだ…
(冷えた身体に灯る熱)
吐き出された欲さえ、熱に変わる
20130425めぐ
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