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(貴方との時間は、何よりも幸せ)




追い付くのに必死なんです。本当に。


『佐々ちゃんまだかーい』


『小谷さ…ちょ、ちょっと待って下さい…っ』


あたし、佐々木 ゆかは小谷さんが好きだ。ノリが良くて、面倒見が良くて、仕事も出来て、事ある毎にあたしを弄って来る小谷 隆司さんが大好きだ。歳はちょっと離れているけれど、そんな事は最早恋愛には関係ないと思っている。


『佐々ちゃんほんまとろいなあ…』


『だ、だってお昼食べ過ぎて身体が…っ』


小谷さんに誘われて、ランチに来たは良いけれど、小谷さんに負けじと食べたら動くのもやっとというぐらいにお腹が膨らんでしまって、すたすたと早足で歩く小谷さんに追い付く事が出来ない。小谷さんは痩せの大食いというべきか、あんなにも食べたのに細くて小柄で、あたしみたいに食べたら食べた分だけ体重に響く事がないから羨ましい。


『そんな食わんでええのに食うからやん……ちょっと頬っぺた肉付いて来てんちゃう』


『ぎゃあっ、そ、そんな事…え、いや、でも確かに…っ』


小谷さんがあたしの頬っぺたをぷにぷにするのも、内心ドキドキしながら受け入れているなんて小谷さんは知らないだろう。そんな事よりも、小谷さんが触った後に自分で触るとどことなくお肉が付いてしまっているような気がして、何度も確かめていると小谷さんが吹き出した。


『佐々ちゃんほんま素直というか騙され易いというか…』


『え、でも確かにちょっとお肉が…』


小谷さんはお腹を抱えてけらけらと笑っている。あたしにとっては笑い事ではなく、このままどんどん太って服が着られなくなってしまったらどうしようとか、集合写真を撮った時に人一倍顔が大きかったら…等々、正直本気で焦ってしまっている。そんなあたしを見ていただろう小谷さんの手がふとあたしの頭に伸びて来て…


『だーいじょうぶやって。俺は佐々ちゃんのそのぷにぷに頬っぺ、好きやから、な』


『…っ』


な、と小谷さんがにっと笑う。小谷さんは笑うと目が細くなって、本当に優しそうに笑う。関西の出身だから、始めこそ言葉は少しきつく感じたけれど、今では小谷さんの内側を少し知っているから、小谷さんの言葉遣いなんて全く気にならない。それよりもそれよりも、小谷さんの頭を撫でてくれるその大きな掌が大好きだ。顔が真っ赤になってしまうぐらいに大好きだ。


『佐々ちゃん落ち着かせるには、頭撫でるんが一番やなあ』


『小谷さんの手じゃないと落ち着かないんですっ』


何だかちょっと分かり易い反応をしてしまったと後悔した。小谷さんに、あたしは貴方の事が好きですと言ってしまった様な言葉は小谷さんにどう聞こえてしまっただろうかと、恐る恐る小谷さんを見上げると、優しく笑っていた小谷さんの表情が今は困ったような笑い方に変わっていた。


『おっちゃんをからかったらあかんで。佐々ちゃん可愛いねんから、あんまそんな事ばっか言ってると勘違いされんで』


『おっちゃんって、10歳ぐらいしか離れてないじゃないですか』


小谷さんは、10歳も離れてたらおっちゃんや、と笑った。あたしは24歳、小谷さんは34歳…正直、同じ歳ぐらいの男の子よりも小谷さんの方が話し易いし、楽しいからあたしは小谷さんの年齢を余り気にしない。でも、やっぱり小谷さんからすればあたしはまだまだ子供で、恋愛対象として見られていない事は何となく分かる。


『さあて、今日は花金やから、さっさと仕事終わらせんでー』


『やだ小谷さん。花金なんて今時言わないですよ』


なんて冗談っぽく言うと小谷さんはジェネレーションギャップやと、ショックを受けたような仕草を一つ。オーバーリアクションな小谷さんが面白くてあたしが笑うと小谷さんも笑う。


こんな些細な事でもあたしがどんどん小谷さんへの想いを募らせている事なんて、きっと小谷さんは知らないだろう。あたしのこの想いが小谷さんに知られてしまって、小谷さんとの時間が無くなるとしたらあたしは…臆病なあたしは、まだこの気持ちを伝える事が出来ない。


























両想いだなん、始めから考えていない


(この関係はあくまで先輩と後輩なのだから)

























20130123めぐ



あきゅろす。
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