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(恋って、どうするんだっけ)




余りの突然さに頭が付いて行かなくって、完全に固まってしまったあたしから横田さんが離れたのはそれから少ししてからだった。ビニール袋から取り出した、ペットボトルの中に入っている緑茶をごくごくと一気に飲むと、横田さんは深呼吸を一つ。それからまたあたしをちらりと見て、口を開く。


『これは、まだ告白じゃないです』


『は…はあ…』


間抜けな返事しか返す事が出来ないあたしは、最早自分が今何を考えているのかすら分からない。あたし達が話すようになってから未だ2、3日しか経っていない中で横田さんに惹かれている自分がいる事にも驚いているのだけれど、それと同じくらい横田さんの行動にも驚いている。


『お隣って、近い様で遠くて、だから俺は天原さんの事もっと知って、俺の事も知って貰って……行く行くは告白したいんです』


『ちょ、ちょっと待って…っ』


勝手に話を進めて行く横田さんについて行けなくて、制止する声の大きさが普段の倍になってしまっていた。どういう事だ、横田さんはあたしの事が好きなのか。行く行くは告白したいってどういう事だ。横田さんは一体いつから、あたしを告白の対象として見ていたのだ。否、そうじゃない…


『あたしの…っ、あたしの気持ちはどうなるんですか…っ。告白とか横田さんの事を知るとか…そんなの、横田さんの都合じゃないですか…ッ』


何を、何をムキになっているのか、自分でも分からなかった。横田さんに惹かれ始めているあたしは、その先を考える事が恐い。横田さんを知る前に惹かれ始めてしまったあたしは、今からどうしたら良いのか分からない。恋愛に対してどう向き合って行くかなんて、この一年間で自分でも驚くぐらい忘れてしまったのだ。


『…ご、ごめんなさい、取り乱しました…』


『いや…俺も、先走っちゃいました。すみません…』


その時の、横田さんの顔は泣きそうな、ぐちゃぐちゃな顔をしていた。恐らくそれ以上にあたしの顔はぐちゃぐちゃだったと思う。あの時、あたしがもっと冷静だったら、もっと大人だったら、あたし達の関係は少しでも変わっていたのだろうか。


『ま、有り得ないか…』


そんな事を考えている余裕もないままいつの間にか2週間が過ぎていた。何故かタイミング良く工期末に向けて仕事が忙しくなり、あたしは横田さんと毎朝顔を合わせていた時間より1時間早く出社、毎日横田さんの家の電気が付いた後に帰って来るという日々を送っていた。


『天原さん、最近物騒だからもう帰りなよ』


『あはは…大丈夫です。バス降りて直ぐ家ですから』


なんて、課長との会話にも正直身が入っていない。否、そんな会話に華を咲かせている場合ではなく、仕事が詰まっている。確かに大変だけれど、遣り甲斐のある仕事…初めて任された仕事だったから、遣り甲斐は人一倍に感じていた。だから、横田さんの事を考える余裕がない今に、少しだけ安心していたのも事実。


『俺も帰るから、天原さんも帰る。課長命令です』


『わ、分かりました…』


時計を見ると0時前。既に終バスの時間は過ぎていたので、最早時間なんてどうでも良かった。元々歩いて帰るつもりだったから荷物も軽めで来ているし、冗談だとしても課長の気遣いを無駄には出来ないので、急いで身の回りを片付けた。


『じゃあ、気を付けて』


『お疲れ様です』


会社の前で課長と別れて、あたしは早足で歩き始めた。


『…疲れたな』


仕事が終わって、一人になると思い浮かぶのは横田さんの事。今頃何をしているのだろう、何を考えているのだろう。あれから一回も会っていないから、あの時の告白云々は結局嘘っぱちだったのだろうと改めて思う。


『ま…今は仕事ですかね』


なんて自分に言い聞かせるように呟いて、あたしは夜空を見上げた。

























(忘れたいのに、忘れられない)


距離が近いのに、こんなにも遠くに感じる

























20130125めぐ



あきゅろす。
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