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(不意に訪れた、)





『ハルは可愛いな…。本当に可愛い。大好き。』


『ちゃ、ちゃんと歩いて…』


何だか懐かしさを感じた。学生時代のコンパの帰りなんかは良く友達や、相手の男性と肩を組んで帰ったものだ。真っ赤になった相手と、顔色一つ変わらないあたし。呑んでも呑んでも、楽しいのに酔っ払わない事を昔は少し嫌だと感じた事もあった。そして今日もそんな事を考えながら、完全に酔っ払ったナオと肩を組んで歩いている。


『どうしてハルはそんなに可愛いんだろうなあ』


何ともまあ可愛らしい酔っ払い方だ。甘い台詞を延々と呟かれるのも恥ずかしいけれど、悪い気はしないのは、多少あたしも酔っ払っているのかもしれない。ナオは酔っ払って千鳥足だけれど一応は歩く事が出来るので、真っ直ぐ歩く事が出来ないナオのサポートのみだから幾分か楽だ。


『ハルー。』


『もう少しで家に着くから頑張って』


あたし達の住む家が少し遠くに見える。ナオの可愛い酔っ払いと後少しでお別れかと思うと少し寂しいけれど、取敢えずナオを無事に家まで送り届けなければと歩みを進める。正直、ナオはもっと呑めるタイプだろう。きっと普段はあたし側の人間だと思う。恐らく、緊張していたか疲れていたか、いつもよりお酒の回るペースが速かっただけ。


ナオから鍵を受け取って、扉を開けるとナオはふらふらとしながらも靴を脱いで玄関に上がる。


『ハル…』


『ん…』


ぎゅっと、ナオに抱き締められて、そのままキスをする。少しばかりお酒の匂いが鼻を掠めたけれど、その後はナオの匂い。酔っ払っているからか、ナオは何度も何度もあたしに唇を重ねて来る。そのリズムが心地好くて、最終的にはどちらがキスをしているのか分からないぐらいに何度も唇を重ねていた。


『ナオ、取敢えずベッドまで行こう。ね』


『うん…』


ナオが倒れる前にベッドまでつれていかなければ、恐らくここでナオが眠ってしまうとあたし一人の力じゃナオをベッドまでは連れて行く事が出来ない。ナオを自室まで促すと、ナオは何故かあたしの手を取って自室まで歩いて行く。


『ナオ』


『ハル…』


ぐい、とナオに引き寄せられて、あっという間にナオの後ろの背景が天井に変わる。ナオに手を取られた時、こうなる事は予想していたし、拒む理由だってなかった。月明かりに照らされて、笑うナオは艶やかだ。普段の優しい顔も、ちょっぴり子供っぽい笑い方もこういう表情も似合うのは元の作りだからだ。


『ハル…好きだ…』


『んっ…』


ふわり、とナオが降りて来て、首筋に甘い感触。ナオの舌が耳朶に触れて、その舌の感触にまた身体が震えると、ナオが小さく笑う。酔っ払っているからか久しぶりだからか、身体が敏感に反応してしまう。


『何度も、ハルとこうなる事想像した…ハルの感じる顔とか声とか…何度も、何度も…』


『あ…ナオ…っ、』


ナオの指が耳朶から、頬、首筋と…ゆっくりと滑って来る。ぞくぞくとした感覚が同時に押し寄せて来て、甘い声が漏れてしまう。首筋から、肩、それから胸に…服の上から柔らかく、優しく触れて来る。その手を愛しくも焦れったくも感じて、身体が自然と捩れてしまう。


『ハル…好きだ。本当に…』


するりとナオの指が服の中に入って来て、その指の熱さに到頭目をぎゅっと瞑る。愈ナオとこうなる時が来た。折角の時にお互い酔っ払っているなんて少しばかり残念だと思った。


いや、少しばかりじゃない…
これじゃあ余りにも…


『ハル…ごめん…』


『え…』


つい先程まであたしの胸で動いていた指がぴたりと留まる。何事かと思ってナオを見上げれば、薄暗くてはっきりとは見えないけれど、酷く辛そうな表情をしているナオと目が合った。


『やっぱり、ハルとの初めては、全部ちゃんと覚えておきたい…ちゃんと、ハルを愛したい…』


きゅう、と胸が苦しくなる。ナオに大切にされているのが分かる…切なくなるぐらいにナオがあたしを大事にしてくれようとしているのが分かって、苦しくも甘くて温かい。ここまでの気持ちを感じたのは初めてだった。ナオの言葉と気持ちがじんわりとあたしの内側まで染み込んで来る。


『ナオ、嬉しい…あたし、ナオとなら酔っ払ってても結ばれて構わないって少し思った。だけどナオはちゃんと、ちゃんと考えてくれてたん………ナ、ナオ』


『……ぐう』


あたしの言葉を最後まで待たずして、ナオはあたしの身体に覆い被さるや否や、柔らかな寝息を立てて眠り始めた。ナオの香りが胸一杯に広がる。どうしてナオは、こんなにも至って普通なあたしをこんなにも大事にしてくれるのだろう。


『……有難う、ナオ…』


ナオが大事にしてくれているように、あたしもナオを大事にしたい。だけど、どうしたら彼を大事に出来るのだろう。あたしの上で眠る彼の背に腕を回して、やんわりと抱き締める。細身の身体だけれど、しっかりと筋肉のある、男性らしい背中。いつか、彼の背中を今よりもっと強く抱き締める日が来るのだろうか…


『あたしも、大好きだよ…愛してる…』


その時はあたしも、貴方にこの気持ちを伝えるから…




(今日はきっと、眠れない)


貴方の腕の中で、速まるばかりの鼓動


























20130331めぐ



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