[携帯モード] [URL送信]
11
(ゆっくりと、触れるこの気持ち)




『天原さ………ハ、ハル』


『そんな急に変えなくても…』


あれから、さっきあたしを襲って来た奴がもしかしたらあたしの家に押し入って来るかもしれない、と横山さんはあたしの部屋に泊まる事になった。付き合って一日目でお泊まりされるとは思わなかったけれど、特に何も起こらなそうで少しだけ安心した。横田さんと言えば先程からあたしを名前呼びしたいのに普段さん付けで呼んでいた為に、つい癖で呼んでは訂正している。


『こういうの大切なんですよっ』


『は、はあ…えっと、じゃああたしは何て呼びましょう』


確かに彼氏彼女…と言ってもつい小一時間前に関係が変わったのだから致し方ないとは思うけれど、いつまでも敬語やさん付けだとおかしいのかもしれない。と、横田さんのこういうのは大切だという言葉にやけに説得力があるような気がして、あたしも名前呼びに挑戦しる事とした。


『え……じゃ、じゃあ…天原さんがハルだから俺は…』


『ナ、ナオ…ですかね』


しまった…思いの外、恥ずかしい。今まで付き合った彼氏は始めから名前呼びか、メールでの名前呼びからの実際に名前で呼んでいたから、面と向かって…しかも突然の名前呼びは想像していたよりも恥ずかしい。ナオと呼んだ瞬間にかあっと頬が熱くなって、隠すように両手で頬を覆った。


『ぜっ、…是非それでっ』


『わ、分かりました…』


横田さん基、ナオは何故か鼻息荒く、ナオ呼びを勢い良く肯定し、頷く。まあ何れはナオと呼ぶ日が来るのだから、今からナオと呼んでも構わないか…とあたしはナオの勢いに負けて頷いた。とは言え敬語は中々抜けず、これは徐々に直していこうと言う結論に至り、あたしは煎れたばかりの珈琲を一口飲むとテーブルに置く。


『ハル』


『わっ』


途端、ナオの力強い腕に引き寄せられて、そのまま抱き締められる形となった。一体どうしたのか、ナオが無言であたしを抱き締めているものだから、あたしはどういう反応をしたら良いのか分からず、暫くの間どきどきと脈打つ心臓を悟られないよう必死で身体を静止させる。


『ハルが引っ越して来てから、多分半年ぐらい片想いでした。それで、毎日話し掛けようとしては緊張とか、気持ち悪がられたらどうしようとか…色々考えちゃって結局話し掛けられなくて……。だから今、俺がハルを抱き締めてるのが正直信じられない』


ぎゅう、と腕に力が入るけれど、苦しいとか痛いとかではなくて、丁度良い…男の人って感じの腕の強さにどきどきする。ナオは格好良いからあくまで目の保養と思いながらあたしが過ごしてる時、ナオがあたしの事を好きでいただなんてあたしこそ信じられない。


『ずっと大切にする。約束します…』


『…っ』


ナオの、その一言で胸がぎゅうっと締め付けられる。決して抱き締める力が強いから締め付けられていると言う訳でもなく、辛くて締め付けられる訳でもない、何だか切ない気持ち。こんなに優しく扱われて、凄く擽ったいのに胸が締め付けられて、どうしたら良いのか分からず、ナオの胸にそっと手を添えた。


『もっとハルの事知りたい。もっと…』


『ん……』


あたしを包んでいた手とは反対の手があたしの頬に添えられて、そのままナオの顔の方に向けられる。そのままナオの顔が近付いて、何が起こるのかなんて分からない訳がないあたしがそのまま目を閉じると柔らかい感触が唇に重なった。


『すみません、ハルを抱き締めてたら無性にキスしたくなって…』


『大丈夫ですよ。あたしもその…したかった…し…』


付き合ったその日の内にキスとか、一ヶ月以内はエッチしないとか、学生時代に良く女の子同士で盛り上がった事をぼんやりと思い出す。端から見たら軽い男女に思われるのかもしれないけれど、ナオには何となく自然とキスしたいと思ってしまった。ナオとのキスは予め決まっていたかのように、すんなりと受け入れた。


『あ、でも安心して下さいね。この先は絶対しません。軽いとかヤりたかっただけとか思われたくないし…』


『あはは…そんな事思わないのに…』


と、笑ってみたけれど、実際ナオがもしかしたら…と思う部分もあったから正直安心した。キスをするしないで心の準備が要る年齢はもう過ぎてしまったけれど、流石に昨日今日関係が変わった相手と身体を重ねる事にはまだ多少の抵抗もある。


それに今は心も身体も一つになるとか、そう言う具体的な事がしたいというよりは、ナオの腕の中でゆったりとしたいというのが正直なところだったりする。


『きっとあたし、ナオがあたしを好きでいてくれる以上にナオの事を好きになっちゃう…』


『俺はそれ以上にハルの事好きでいる自信あるよ』


何たってハルに半年も片想いしてたんだから、と付け足してナオが笑う。つい先日まで単なるお隣さんが彼氏彼女という関係に変わったのに、まるでずっと付き合っていたかのような安心感。決して自分に順応性があるとかではなくて、ナオのこの力強い腕があたしを安心させてくれるのだろう。


『これからナオの事、いっぱい教えてね』


『うん…俺も、ハルの事沢山知りたい…』


そう言って再び触れるだけのキスをして、あたし達はお互いの話をした…

























(穏やかで、暖かくて)


ずっと感じていたいこの温もり…


























20130203めぐ



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!