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俗に言う、急展開です




『ご免なさい、簡単なものしか出来なくて…』


『あ、いえっ…お構い無くっ』


あれから、理由はどうあれ横田さんの晩御飯を台無しにしてしまったあたしはせめてものお礼という事で横田さんを家にお招きした。こんな事になるなら部屋もちゃんと片付けていたし、食材だって揃えていたけれど…そこまで汚れてはいないけれど部屋は綺麗ではないし、晩御飯だって白米にお味噌汁に実家から大量に送って来られたジャガイモと家にあったウィンナーを炒めたものぐらいしか作る事が出来なかった。


『…』


『…』


気まずい、というか妙な沈黙が気まずい。部屋が狭いから、ソファーに隣同士で座る、この距離も気まずい。座る致し方ないとは思うけれど、横田さんに抱き締められた後だから横田さんの顔を見る事が出来ない。横田さんも横田さんで矢張り気にしているのか、無言でお菜を口にしている。あの時の恐怖は未だ続いているし、もし家の前に来ていたらどうしようと思うけれど、横田さんがいる分安心している。だけど逆に二人の空間は妙に緊張もする。


『あの、ですね…俺、天原さんに言わないといけない事があります』


『は、はい…』


神妙な顔をしながら、横田さんから切り出した。言わないといけない事があるのはあたしも同じで、まずあの時に傷付けてしまった事も謝らないといけないし、あの日以来仕事が忙しくて朝や帰りの時間がずれてしまったけれど、決して避けている訳ではない事を伝えなければならない。だけど、横田さんから切り出した為、まずは横田さんの話を聞こうとあたしはお箸を机に置いた。


あたしの様子をちらりと見ると横田さんはゆっくりと息を吸って、


『最近、仕事忙しくて、いつもの時間より1時間30分前に出てるんです。』


『……はい。え…』


覚悟を決めて話すような、そんな口調で横田さんはそう言った。勿論その言葉に込められた意味があたしには分からない。そんな表情で話すものだから、もっとあたしが驚くような言葉が出て来るだろうと思っていたあたしは、肩透かしを食らったらような感じだ。あたしが首を傾げていると横田さんは顔をぱっと上げて、


『決して天原さんに会うのが気まずかったという訳じゃないんですっ』


その言葉を聞いて、初めてあたしは横田さんが何を言いたかったのかを理解した。というか何故始めの言葉で分からなかったのかが不思議なぐらい。そう、つまり横田さんが何を言いたかったかと言うと、横田さんはあたしが横田さんに言いたかった言葉を伝えたかった訳で…


『え、え…な、何で笑うんですか』


『ご、ごめ…なさ…あはは…だ、だって…』


意味を理解した途端に笑いが込み上げて来て、あたしは声を出して笑ってしまった。だってお互いが同じ事を思って悩んでいたなんて、誰が考えただろう。暫く笑いが止まらなくて、横田さんは驚きと戸惑いを同時に見せたような表情をしていたけれど、あたしが横田さんに笑った理由を告げると今度は横田さんが笑った。


『…あの…ごめんなさい。』


『え…今度はどうしたんですか』


笑っていたかと思えば一転、横田さんの心境的にはこの言葉がぴったりだと思う。あたしも横田さんに言わなければならなかった事を思い出して、今度はあたしが姿勢を改めた。だって今言わなければ、このまま伝える事なく終わってしまいそうだったから…


『あの時、あたし…どんどん自分が横田さんに惹かれていってて、暫くこんな事なかったから、どうしたら良いか分からなくて、怖くて…』


上手く話が纏まっていない事は重々承知。だけど、何とか横田さんに伝わって欲しいと、その一心で言葉を発していた。横田さんの表情を見る余裕なんてなかったけれど、横田さんは黙った儘聞いてくれているから、あたしはそのまま言葉を続ける。


『でも、横田さんと会わなくなってからもやっぱり横田さんの事ばっかり考えちゃって…あの時、自分の気持ちをちゃんと伝えていたらって、凄く後悔してます…』


ゆっくり、ゆっくりと言葉を紡いだ。正座した自分の太股の上で強く握られた拳がじんわりと熱くなる。言い終えた後も横田さんが黙っているものだから、横田さんがどんな表情をしているのか気になって、ゆっくりと顔を上げると横田さんは何とも言えない、何を考えているのか分からない表情でこちらを見ている。


『あの……』


『えっ…』


その沈黙が気まずくて、あたしが声を掛けると横田さんは、はっと我に返ったのか、あたしと視線がぶつかる。見れば見る程に整った顔はやっぱり格好良くて、今度はあたしがぼんやりとしかけたその時だった。


『すみません…つまり…』


『えっ』


横田さんの一言に、思わず大きな声が出てしまった。あたしの説明は確かに下手くそだと思う。だけど横田さんだっていい大人だ。こんな雰囲気に顔を赤らめた女の子がいたら察してくれるだろうと思っていた。だけどあたしの期待に見事と言わんばかりに気付かない横田さんは懸命に理解しようとしてくれている顔…


『だ、だから…あたし、横田さんが好き…っ、だと思います……』


『…っ』


思います、はあくまで照れ隠し。それよりもまさか、あたしが告白するなんて思わなくて、予想を遥かに超えたもので、本当に穴があったら入りたいという気分。横田さんは横田さんでがっちり固まってしまって、目を閉じる事すら忘れてしまっている状態だ。


『あの…横田さん……何か言って下さい…』


『あ……は、はい…ええと…』


余りに恥ずかしくて、自ら先を促してしまった。横田さんは固まってしまった頭を懸命に動かして、何かを言おうとしていて、だけど上手く言葉が出て来ないのか、口をぱくぱくさせてから、ゆっくりと深呼吸をして、それから真っ直ぐにあたしを見た。


『俺、天原さんが好きです。先に言われてしまいましたけど…』


真っ直ぐあたしの方に身体を向けて、何の迷いもなくそう言ってから、


『俺と、付き合って下さい。』


勿論あたしに断る理由はなくて、あたしが小さく頷いた後の、笑った横田さんの顔がとても印象的だった。


























(こんな始まり方も、有りかもしれない)


だって望んだ急展開だから。

























20130127めぐ



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