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「…っ」

口の中に血の味が広がる。っち、口ん中切れてんじゃねえかよ。

尚も向かってこようとする気配を感じ、短く息を吐く。

「…いい加減にしろよてめえ。寝ぼけんのにも限度があんだろ」

不思議と、いきなり殴られたことに対する怒りはなかった。
佐山がまだ泣いてるせいかもしれない。

ただ感じるのは、苛立ち。
それが何に対しての苛立ちなのか、わからない。

「まだ向かってくんなら容赦しねえよ」

佐山は俺を見ない。

俺を見ず俺の言葉も届かず存在さえ認識してないような。

――ああ、苛々する。

再び向かってきた佐山を蹴り上げる。
ヤバい、と思ってしまったのは、あまりにもその体が軽かったから。

咳き込む佐山に近付く。
「目え覚ませよ。…俺を……」

そこで言葉に詰まった。


俺を、………何だ?



「…ぁ………」

戸惑う俺の耳に、微かに佐山の声が届く。

佐山は顔を上げ、俺を見て目を見開いている。

…やっと目え覚めたか。

「ぁ…ご、め、ごめ、なさ…」

俺を見上げたまま両手で口を覆い、ふるふると力なく首を横に振る。

容赦なく蹴り上げたことに罪悪感を感じてしまうくらい、小動物のように震えて。


数分、いやたった数秒だったのかもしれない。お互い無言の間を置いて、佐山はふらつきながら立ち上がる。

「…ごめん、なさい、もう、しないから」

痛切な表情と言葉。
リビングを出て行く頼りない背中を、呆然と見送る。

玄関のドアが開き、閉まった音を認識するまで、
俺はただ、戸惑っていた。






side-澪


「…ぅ、う…っげほっ…」

情けなく嗚咽を漏らし咳き込みながら、よたよたと夜の中を走った。



たすけてたすけて、助けてよ。




「李雨、りう…っ」




お願いだから、

俺を止めて。



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あきゅろす。
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