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沖銀



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"その顔に触れたい"


滑らかにすべる肌も柔らかさも全ての感触を感じて、奪いとってしまいたい。


このまま彼の全てを手に入れて。
一生、ずっと、永久に誰の目にも付けず、彼を愛する事が出来るなら…


俺は、満たされるのだろうか?







「沖田くん?」


はっと現実に引き戻された。
茜色に染まる空と色付いてきた広葉樹の下で、俺は旦那の隣でベンチに座っていた。風も冷たくなったのか、肌に当たる空気は冷え冷えとしていて熱を奪っている。そんなに長い間、この場所に居たのか、とぼんやり思った。


「どうかした?」


無意識に伸びた手が旦那の頬を撫でていたせいだろうか。旦那は不思議そうに俺を覗き込んでいる。


「…なんでもないでさァ」

優しく灯る赤い目の男を見つめ返した。


先程までの想いは何だったのだろうか。

旦那を好きになって、旦那も俺の事を好きだと言って、成り行きの如く付き合っているだけのはずなのに。
こんなにも依存に満ちた想いを、俺はこの人に抱いていたのだろうか?


(…こんな感情を持ったところで、近くになれるわけでも、無いのに)


大概俺も馬鹿なのだなと自嘲気味に笑えば、旦那は何がなんだか分からないとでも言うように、小首を傾げていた。

「なんでもないですから。…ほら、帰りやしょうか」

そう言って立ち上がった。

俺たちは、この夕暮れ時はそれぞれの家へと帰る時間と決まっていた。
こんなに早い時間に帰るだなんて今時中学生でも居ないだろうけども、俺たちの間では暗黙の了解となっていた。




それは、待っている人たちが居るから。

旦那は年若い奴ら。
俺は真選組。



旦那が好きで側に居たいのは山々だが、それと同じ位真選組も大事なのだ。

多分、旦那も同じ気持ち。
だから何も言わず、空が茜色になる時間になると、どちらがともなく帰路を口にする。

「そうだね、帰ろうか」





返す言葉は、どちらもほんの少し淋しさを混じった言い方になるけれど、気付かない振り。


「またね、沖田くん」

「えぇ、また明日」



名残惜しいその声を聞きながら、俺は同じく別れの言葉を残して背中を向けていた。








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あきゅろす。
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