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探したよ、大切な人



「俺に姉が居るの、知ってますよね?」
「ミツバ様、の事か?」
「えぇ」

総悟とミツバは6歳程年が離れているらしい。会ったことはないが、穏やかで大人しくて…異常に辛いものが好きらしい。
使用人の中での噂話程度の知識でしかなかったが、総悟の話では大体その通りのようだった。

「昨日、倒れたんですよ」
「え、」
「アンタは知らないでしょうね。親が隠しましたから。それに、姉さんもすぐに目覚めましたし」

大事にはならなかったので、ミツバの側近の一部しか知らないだろう。
それが何故、自分に腹が立つことに繋がるのか。

沖田は小さくため息をつきながら、土方に向かい合うゆうに座り直した。


「…俺ね、本当は跡取り息子なんです。これでも長男ですし、それなりに学識を持ってますからねぃ」

沖田家は長女、長男と二人姉弟。貴族の家柄では原則、息子が家を継ぐ。

「けど……親は、そう思ってないみたいで」

総悟は両親との折り合いが悪かった。
父親は温厚で人付き合いが良く、出来た人だと褒め称えられているが、実際のところ協調性があるだけの覇気の無い詰まらない男で、特に総じて好きには成れなかった。また、母親はミツバをたったひとりの子供であるかのように愛で育てた。噂では"男"を好まない変わった女であったとのこと。婚姻すら渋ったとの事だったが、あの弱気な父親であれば気にしなくて良いだろうからと受諾したらしい。計算高く、自己愛の塊の母親は父親以上に嫌いであった。
だので総悟は小さな頃から親を親と思わず、他人のように振る舞っていたという。

「俺が嫌ってたんで、あっちも好まなかったようです」

だから全ての期待が、ミツバに向かった。本来なら総悟が受け継ぐべきものを含めて、将来の沖田家を全て。

「お前はこの家を継ぐんじゃないのか?」
「形式的には。…実際の権限は全て姉さんと思いますが」

けれど、ミツバは小さな頃から体が弱かった。身体的に悪いところは無いが、精神的なものから影響は受けやすかったらしい。

「姉さんはストレス、がダメみたいで…重圧を感じると、すぐに横になっちまうんでさァ。多分、当主になんて身分になれる体を、してない…」


両親は知っていたらしい。けれどなんら対処をすることは無かった。
同時に、沖田は知らなかった。沖田が知っているのは、いつも明るい笑顔で、優しく遊んでくれたその姿のみ。

「…今まで、知らなかった…」

知らなかったから、何も気付かなかった。倒れる程に追い詰められた姉を、まるで苦労を知らない人のように、見ていた。
知らないからこんなに馬鹿だった。いや、知らない事が馬鹿だった。

「あんなに良くしてくれたのに…俺が居るから、姉さんを追い詰めてたんだ…」

顔を歪めて下を向いた。
歪んだ顔を見せたくなかった…より、どうしようもない自分から、逃げたがってるように。


土方は黙ってその姿を見ていた。




20090403 狛崎雨

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