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探したよ、大切な人



「え?」
「だから、総悟様が呼んでますってば。いつもの場所だそうですよ」

この仕事につくようになってから知り合いとなった山崎からの伝言だった。俺より前から総悟の側仕えとして居たが、俺が来たことで総悟の両親…つまりは主人に遣えることになったらしい。
引き継ぎをする時、涙ながらに「良かった…!ホント良かった」と何度も言い、「大変だと思いますが、頑張って下さいね」と清々した顔で言われて思わず殴りかかりそうになったのがきっかけだった。


山崎には伝言の礼を言い、すぐにあの場所へと向かった。

初めて総悟と出会った、ピアノの部屋だ

あれ以来総悟はピアノをよく弾くようになった。本人曰く聴いてくれる人が出来たから、とのこと。
暇さえあればすぐにこちらに来るので、いつの間にかこの部屋はある意味俺たちの「待ち合わせ場所」となっていた。





ドアを開けると、部屋は大音量のピアノの音で満たされていた。

思わず耳塞ぎたくなる大音量に、眉を潜める。不快、という程では無いが気持ちいい曲には聞こえなかったからだ。
全体的にタッチが強く、音にほとんどアクセントが付いている。曲を無視した、酷く乱雑な弾き方だった。

(…荒れてんな……)

素人耳にも分かる程凄まじい表現。見ているだけでも、まるで鍵盤を叩きつけるようだった。

「おい、」

あまりの弾き方に声を掛けたが、総悟は夢中なのか全く耳を傾けない。

「総悟」

名前すら反応しない。途端に不安に駆られた俺は、思わず肩を引いて無理矢理鍵盤から体を離した。

「…っおい!」
「…、!!」

引き離された直後、総悟は固まっていた。

瞬間的に止められたせいか焦点が合っていない。

「…土方、さん…」

総悟は少し立つと俺の顔を認識したのか、大きく息を吐いた。


「どうしたんだ?」
「…いや、なんでもない」
「あんな弾き方しといて?」

総悟は少し驚きながら、苦笑いをした。

「ちょいと、苛々してましてね。…いやぁアンタにも分かっちまいますか」

パタン、と蓋を閉じてピアノへと向き直った。

「…何かあったのか?」

総悟がこんな風になるのは珍しい。いつも飄々として、穏やかに物事を見る。ただし多少(…いや、結構か?)性格がひねくれているので聞く人によっては挑発してるようにしか聞こえない発言をかましたりする程度だ。
それを阻止する為に総悟を止めた事はあったが…こんな風に取り乱したりした事は…本当に、無い。
むしろ初めてではないだろうか。

「…少し」
「少し?」

「…自分に、腹がたっちまって…」

総悟は小さく、溢すように話を紡ぎ出した。




20080315 狛崎雨

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