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探したよ、大切な人



次の日、土方は同僚に「主人が呼んでいる」と聞かされた。

何事かと瞬間的に肝が冷える。日々の行いの悪さのせいで解雇…というわけではないだろうし、むしろ真面目に行っていると思う。…が、土方は影でよく煙草を吸っている。ヘビースモーカーのせいで止められないのだ。バレない場所であれば処構わず吸うので、そろそろ勘づかれてきたのかもしれない。
嫌な予想しかたてられない土方を裏腹に、呼ばれた部屋に居たのは思いもよらない人物だった。

「…お前」

あの大人びた視線を持つ、いつぞやの青年。前会った時より数段上物の服を身にまとった姿を見て、この青年が使用人ではないのだと分かった。
驚いて目を見開く俺に、青年は軽やかな礼とてもに自己紹介をした。

「沖田家第二子沖田総悟でさァ」

ニコ、と笑う彼を見て、やっと土方は青年が雇主の息子の沖田であることに気が付いたのだった。


「おまえ…なんで」
「アンタを気にいっちまったもんでね」

沖田が言うに、あの時の掃除がとても楽しかったとのこと。久しぶりピアノを弾けて、その上聞いてもらったこと。良い気分を味わえたので、またそうなりたいと思った…とのことだ。なのでこれからは自分の付き人になるように、と沖田は令状を出しつつ言った。


「え、付き人って…、ちょっと」
「給料あがりますぜ?」

ぐ、と言葉がつまる。
土方は今切実にお金を欲しているわけではなかったが、実家への仕送りがなんとなく少ないことに多少気がとがめていた。母が病気に伏したとのことで療養費もかかる。大事ではないので帰る程ではないにしろ、ある程度の生活費も送るようだろと思っていたのだ。

これ以上仕事を増やすわけでもなく給料を上げられるのだから、多少の不安は差し引いても、これ以上の条件はないかもしれない。


それに、
土方は、少なからずこの青年に興味を持っていた。不思議な雰囲気を醸し出し、印象強いピアノを弾く彼が、ずっと頭の片隅に残り消えなかったから。

また会えた。

そんな感慨を持った自分が居る事を、土方はしっかりと自覚していたのだ。

「…分かった」
「へぃ。これからよろしくお願いしまさァ」

これからどんな事になるやら、不安は強いもののこの男への興味も同じ位だ。やるだけやってみようと沖田の背中へ付いた。



「あ、そうだ」
「なんだ?」
「敬語はちゃんと使って下さいよ?俺は主なんでね」

ニヤリと笑った沖田に、ヒクリと顔が引きつる。おかしいこと言っていないはずなのに、裏に見えるオーラが何故かどす黒くみえる。やはり前途多難だと小さく溜め息をついた。




20080215 狛崎雨

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