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探したよ、大切な人



ピアノの音が聞こえた瞬間に俺は身震いをした。

背中に電気が走るような感慨。頭を殴られたような衝撃。しかし、自分が何故このような状態になっているのか分からなかった。

青年がとてもピアノが上手い、というわけではない。いや、ピアノ曲を聞いたの自体が少ないから本当を言えば上手下手は全く分からないのだけれど。でもその最初の音は強く強く頭に響いた。音は耳を抜けて喉元を通り、心臓を鷲掴みにして血の如く全身へ緊張を巡らせたのだ。

青年はそんな土方に気付かず一心にピアノを弾く。

曲は、最初の1音の衝撃さえ気にしなければ思わぬ心地よさを持っていた。軽快でかつ滑らか。曲のもつ優しさは、または青年の感情に合わせて弾かれているのだろうか。
何にしろ、久しぶりにとても穏やかな気持ちで入られる雰囲気にその身をまかせたのだった。


ふと気が付くと、青年は一曲を引き終えたようだった。疲れたように背中を反らす。

「あー久々に弾いた…ちょースッキリ」
「良かったぞ。お前、上手いんだな」
「マジでか」
「おう」

褒められるなんて思ってなかった、なんて言いながら青年はピアノを閉じた。嬉しそうであどけない姿に、あ、やっぱり少年かもしれないなんてぼんやり思った。

「さて…そろそろ行くか」
「あ、俺はもう少し残りますぜ」
「まだ何かあるのか?」
「個人的に掃除がまだ終わってないんで…まぁすぐに終わりますから、先に行ってて下せぇ」
「分かった。早くしろよ?」
「へーぃ」

ヒラヒラと手を降る青年を後に残し、その場を離れた。途中、自分が掃除時間を大幅に過ぎていたことを思い出し、急ぎ足で報告に行く。
その後名前を聞いてないなと気付いたのはその日の仕事が一段落付いたころ。なんで聞かなかったのかと多少後悔しながらも、また会えるだろうと予感をしながら夜を迎えたのだった。




20090201 狛崎雨

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