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リトル†ダンディー 本編 (メイン連載中)
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                      ◆


――それは確か、三年生の春だった。
――新学期が始まってしばらくたったある日の昼休み、俺はいつもの四人で弁当を食べようと屋上に行った。
――その日の俺は日直で、黒板を消したり提出物の整理などをしていて、行くのがいつもより遅くなってしまった。
――もう三人とも大方食べ終わっているんだろうな、と思って行ったら、

――そこにはファビウス先輩しか居なかった。

「遅れてごめん! 日直の仕事してて……って、あれ? 今日はファビウス先輩一人ですか?」
「ああ、カバレロは生徒会の用事が入ったって」

――そっか、カバレロ先輩は生徒会長やってたんだ。
――学期初めでバタバタしてたな。
――ジャックは……

「カバレロ先輩も大変ですね」
「俺やお前らの手も借りたいって言っていたほどだ。俺も役員選挙、立候補しときゃ良かったな。でも立候補者多かったから、中学の時とは逆に結構な差で落ちたかも」
「え、先輩って、中学校の時生徒会入っていたんですか?」
「うん、生徒会長やってた」
「そうなんですか。いや、全く知りませんでした」
――先輩は結構人数の多い中学校出てたよな。
――どうりで校内でモテモテな訳だ。
――でも本人は恋愛に関してはかなり鈍いから、全く気付いていないけど。
「ま、事実だけど自慢はしてないからね。ところで、ジャックはまた呼び出しか?」
「だと思います。化学の宿題忘れて授業中に怒られてました」
「相変わらずだねえ」

俺は腕時計を見た。
昼休み開始から既に十五分経っている。
普通に呼び出されるぐらいなら、もうとっくに戻ってきてもいい頃だ。

「……でも遅いな。もしかしてまた喧嘩か?」
「そうでなきゃいいけど」

ジャックは欧米では嫌われる八重歯をこの年になっても持っていたので、よく不良のターゲットとなっていた。
けれども、どんなに大人数でかかって行っても、必ず返り討ちに遭い、彼に勝ったことがあるという人を聞いたことがない。

その時、屋上の扉が開く音がした。
二人で振り返ってみると、そこに立っていたのは生徒副会長の女子だった。

「あ、あの、会長、いませんか? いつも屋上で弁当を食べていると聞いたのですが……」
「カバレロか? 今日は来てないぞ。生徒会の仕事があるって言って。……もしかして、そっちにも行ってない?」
「来てないです」

「「……」」
俺達は顔を見合わせた。
「……おかしくないか?」
「おかしいな」

すると、女の子は浅く礼をして言った。
「あの、お食事中、すいませんでした」
「いや、こっちこそ、役に立てなくて――」
「失礼しますっ」
先輩が言い終わらないうちに、彼女は扉の向こうに消えていった。

「「……」」

俺達はしばらく黙っていた。
そしてまた食べ物を口に運ぼうとした瞬間、

その声達は聞こえてきた。

「誰か、先生と救急車呼べ!」
「どうした!」
「何があった!」
「ほら、あそこだ! あの八重歯野郎がそこの中庭で不良と喧嘩して、校舎の中にいた不良の仲間がどこかの教室の花瓶割って、ばらばらになったそれを野郎に落とそうとして、そしたら何でか生徒会長がどこからか飛び出してきて、野郎をかばって……」

その後の言葉は、言わなくても想像できた。
八重歯野郎はジャック。
生徒会長はカバレロ。
そしてその背中には――。

俺達は互いに頷いた。
そして残り少なくなっていた弁当を片付け、現場に急行した。


                              ◆


ミルトリーファミリー本部 会議室

「ああ、昨日ボスが言っていた」
昨日、ローマで行動していた六人が頷く。
しかし、事情を知らない三人は頭に疑問符を浮かべる。
「第三の魔法集団? それって何だ」
「そういや、お前らいなかったな。簡単に説明すれば、ミルトリーとルビー以外の魔術師家系のことだ。彼らも僕ら同様に争って数自体は少ないけど、まだいるのは確かなんだ。で、その代表格がベノファ家、ですよね?」
ゲールがボスに確認する。
「そうだ。ミルトリーとルビーを除いた少数派の中では、一番力を持っていた集団だ。『ベノファの白銃(ベノファ・ホワイト)』という一家に代々伝わる武器で知られている。けれど、その銃がどこにあるか、今、誰が持っているかは分からない。それ以前に、ベノファという家系自体、まだ生き残っているかどうかは不明だ」
「だったら、兄貴の後ろにいる人はベノファ家の人間の可能性もあるけど、それ以外の家系の人でもおかしくないということか」
ゲールが言う。
「そうなるな」
「でも僕、『ベノファ』ではなくて『ベノラ』という名前は聞いたことがあるな。ボスなら、聞いたことがあるかもしれないが」
「誰だ?」
「……レベッカ・ベノラという情報屋だ」
「あ、彼女知ってる!」
「そういえば、任務中に会ったな」
ユーミンが名前を言った後、ローリーとサムが声を上げた。
「あれ、お前ら知り合いか?」
「いや、実は二、三ヶ月前に、任務中に泊まるホテルへの道が分からなくなって迷子になったことがあって、その時にたまたま同じホテルに泊まっているという彼女に案内してもらったんです。しかも部屋も隣で、色々と話を聞かせてもらいました」
「なんと。彼女はどんな人だった?」
マリノが興味津々に尋ねる。
「とにかく、若々しいばあちゃんだった、ていうのをよく覚えています」
「70は超えてるって言ってたのに、あの若さは50後半から60代ぐらいにしか見えなかった」
「え、そんな見た目の人がいるのか」
「いるんだよなあ、これが」
ベルフの突っ込みをローリーは悠々と受け止めた。
「で、どんな話を?」
今度はロタールが聞く。
「うーん、一杯ありすぎてあまり詳しくは覚えてないなあ……。――あ、でも、彼女の娘と孫の話は、ちょっと、なあ……」
「……あれか。悲しすぎる上に、衝撃的過ぎて俺も逆に残ってるな」
「あー、聞かない方が良かったかな」
ロタールは気まずそうな表情になる。
「いや、別に大丈夫。――長くなるかもしれないけど、大体の話はこれだ」


その昔、彼女には三人の娘がいた。
大人になった三人は、それぞれ自分の気に入った相手と結婚し、子供を身籠った。

ところが、何の因果か、三人ともとんでもない目にあってしまう。
まずは次女。
彼女には二人の息子がいた。
でも彼女は、上の子が十二歳、下の子が十一歳の時に、癌で亡くなり、その後二人を育てた夫も、出張中にとある大事件に巻き込まれて帰らぬ人となった。
上の子はレベッカが引き取って、下の子は別の親戚が引き取った。

次に三女。
彼女には一人娘がいた。
夫に先立たれてしまったけど、三年後に再婚した。
ここまでだったらハッピーエンドだろう。
けどあろうことか、彼女は再婚相手の息子と恋に落ちてしまった。
お互いの立場を知らずに。
妻の浮気を知った再婚相手は当然激怒。
浮気相手を銃で殺そうとするけど、その相手は何と実の息子。
手が震えて銃の照準がずれて、間違って妻を殺してしまった。
この時、一人娘も現場にいたので、娘に父親を選ばせた。
すると、一人娘は息子を選び、息子は即座に実の父を殺した。
一人娘と三女の浮気相手だった二人は、今も一緒に暮らしている。

最後に長女。
どうして彼女を最後に持ってきたかといえば、彼女だけでなく、その息子も悲惨な立場に置かれたから。
彼女は、会社を経営していた男と結婚した。
しかし、男はある巨大事業に失敗してしまい、会社が倒産して、家のベランダから飛び降りて自殺した。
彼女の一人息子は、まだお腹の中にいた。
彼女は悲しみに暮れ、一時的にレベッカと一緒に暮らすことになった。
しばらくは穏やかに過ごしていたけど、ある日、運動がてらレベッカと買い物に行った帰りに、居眠り運転の車に撥ねられた。
彼女は即死。
でも、お腹にいた子供は皮肉にも一命を取りとめた。
けれど彼に育ててくれる両親はいない。
そこで、レベッカが彼を引き取った。
ところで、レベッカの職業は情報屋だけど、その子は最初、普通の会社に就職することになっていた。
けど、ある日突然『情報屋になりたい』と言って出て行ったきり行方不明。

ちなみに、次女の上の息子は長女の息子が出て行った後に引き取った。


「……とのことだ」
「……」
場の空気は非常に重くなった。
「それで、彼女は今、最後に話した行方不明の一番上の孫を探して各地を回っている、って言ってた」
「その子の名前は?」
マリノが聞く。
「教えてくれなかった。自力で探したいから。もし教えたら探されてしまう可能性があるって」
「相当警戒心強いな」
「でも、名字はベノラのままかもしれないから、その気になったら調べられると思う」
サムが言う。
「けど、孫も情報屋なら、それなりの予防線は張ってると思うからなかなか見つからないかと」
リッキーが反論する。
「それはあるかもな。けれど、逆に宣伝のために、裏社会にはオープンな奴かもしれない。もしそれでそれなりに稼いでいたら、自分を含めて四人で暮らしていくことは可能じゃないかな」
ユーミンが言う。
「……成程。色々な意見があるが、年齢を考えると、長女の子ならとっくに成人しててもいい頃だ。名字は変わっている可能性がある。けれど、全く調べられないという訳でもない。私が見てきた限り、情報屋は限られた相手としか取引をせず、表社会にはほとんど、あるいは全く顔を出さない閉鎖的な人と、裏社会の相手なら誰とでも取引をして、表社会では一般人の顔をして暮らしている割とオープンな人のどちらかにだいだい分けられる。一応確認するけど、ローリーとサム、そこまで深い話を聞いたということは、君達とレベッカが、お互いにこっち側の人間だということを分かってた、ということでいいよね?」
マリノの言葉に、名前を呼ばれた二人は頷いた。
「ということは、レベッカは初めて会ったこっち側の人間に、自分の『情報』を提供した。その真意は分からないと思うけど、相手をこっち側の人間だと認識した上で話したのならば、先程私が言った後者のタイプの情報屋の可能性が高い。それに、親子は似ると言うけれど、祖母と孫でも同居しているのなら似るはずだ。だから孫も同タイプの情報屋と考えてほぼ問題ない。探せばあっさり出てくると思う。もちろん、敵か味方か分からないから、調べるに当たって慎重になる必要はある。――というのが私の意見だ。ゲール君、そして皆、私は彼がメリアーノ君のバックにいると見ても悪くはないと思う。タイプ的にも他人を養って普通に暮らしていてもおかしくない。今後、彼らの動き次第で状況が一変する可能性は否定できないから、一度調べる価値はあると思うが、どうだ」


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