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リトル†ダンディー 本編 (メイン連載中)
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翌日 午前二時 謎の寝室

静まり返った暗闇の中、携帯のバイブ音でカトゥーナは目が覚めた。
バイブ音を止めて時刻を確認し、それをしまってゆっくりと起き上がる。
テーブルの上にある飲みかけの水を一気に喉に流し込み、ベッドから降りて、脱がされて椅子にかけられていた上着を着る。

――実を言えば、来たときから薄々危険な雰囲気を感じ取っていた。
――それから出会ったブランシュはともかく、レベッカからは、もう、何とも言えないようなモノが発せられていた。

周りを見渡し、他に自分の私物がないことを確認する。
そして、ズボンの中の拳銃と上着に隠しているナイフの存在を確かめ、そっと寝室のドアを開けた。

――レベッカの名前は聞いたことがあった。
――直接会ったことはなかったが、カバレロがジャックと共に重要視している情報屋、というのは知っていた。

そこはリビング兼キッチン兼玄関だった。
人の気配がないことを念入りに見た後、忍び足で玄関に向かい、靴を履く。

――だが、今日、いやもう昨日か―会った彼女は、異様な何かをその身に纏っていた。

それから、ドアを開け、外に出てそっと閉めた。

――けれど、俺も迂闊だった。
――あそこで倒れなければ、ここに運ばれなかったのに。
――熱で頭がおかしくなっていなければ、ジャックのことを話さなかったのに。

その建物は集合住宅だったようで、外に続く階段が伸びていた。
それらの一つ一つを、足音を出来るだけ立てないように降りていく。

――けれど、もう遅い。
――今更後悔しても遅い。

下まで降りると、目の前に大きな門があった。
そのロックを解除し、その門を開けて外に出た。
門は閉じると、再びロックが掛かった。

――ジャックとは連絡が取れた。
――けれど、相当心配してくれていたみたいだった。
――まあそうだよな、銃声も聞こえてたそうだし。
――声を聞いて、夢で乱れていた心の整理も若干ついた。

彼は夜の街を歩き出した。
目指すはファミリーの本部。

――けど、カバレロには今回の件、どう説明しようか。
――彼については、心の整理をしようとも、しきれない。
――でも仕方がない、今の俺には、他に帰る場所がない。

すーっと風が吹き抜け、まだ体調が万全ではないカトゥーナの身体を震えさせた。
四月とはいえ、イタリアの夜は寒い。
彼は左手をポケットに突っ込み、右手を額に当てた。

――熱はだいぶマシになったな。
――でもまだ、普段と比べると熱い。
――動けるようになったとはいえ、冷えた手が気持ちいいと思うからまだまだだな。

右手もポケットに入れて、彼は、はーっと息をはいた。
気温は一桁。
はいた息は白く染まり、夜の街へと消えた。


                        

Little † Dandy   第2章 争いが語るもの



午前九時 ミルトリーファミリー本部

「ボス、おはようございます! 皆待っていますよ」
ファミリーのボス、マリノの執務室に、『ブラッディ・ローズ』のボス、ゲールが現れた。
「お、おはよう。学校はどうだったか?」
そう言いながら、マリノは席を立ってドアを開けたまま待っているゲールの元へ向かう。
「今日はそこそこ楽しかったですよ。体育の時間に皆でサッカーしたんですけど、何とリッキーがヘディングシュート決めまして」
「それはすごいな」
「でも次の時間寝てて注意されました」
「あらら。他には何かあったか?」
「えっと……、ああ、そういえば――」
まるで父と子のような会話を繰り広げながら、二人は三階の小会議室に向かった。

                             *

会議室の扉を開けると、騒がしかったメンバー達は一斉に静まり、二人の方を見た。
二人が席につくと、全員がマリノに向かって座ったまま一礼した。
まず、マリノが話を切り出した。
「今回集まってもらったのは言うまでもない。昨日、このローマの街であったゴタゴタのその後の経過を報告するためだ。昨日ここに来ていた六人は事情をよく理解していると思うが、来てなかった三人、話は聞いたか?」
「先程聞きました。どうやら相当大変なことになっているみたいですが」
三人を代表してリッキーが言った。
「ああ、結構ややこしいことになっている。ルビーの中から裏切り者―サファイアが出て、しかもそいつがロタールとベルフの友人で、その一連の騒ぎに関わることとなった訳だが、そいつの行方が分かった」
「どこに行ったんですか?」
一番心配していたロタールとベルフの声が重なる。
「……ヴェネツィアだ。しかもそこに行ったのは彼だけではない」
「と、いうと」
ゲールが聞く。
「実は、メロナが脱走して、彼もヴェネツィアに行った」
「ええっ!?」
皆が驚いたが、特にゲールとユーミンはひどく驚愕した。
「あそこ、密室ですよ? 一階からの階段もミルトリーの所属員にしか見えないはずですが」
ユーミンが反論した。
「確かに、あの階段は外部の人には見えない。だが、部屋の奥のタンスの裏に脱出のための通路が掘られていた。その上何の因果か、二人が同じ人物に保護されているらしい」
マリノは何枚かの写真を机に出した。
「情報収集班の人達に頼んで撮影した写真だ。ボストンバッグを持っているのがサファイア、薄茶色の上着を着ているのがメロナ―記憶を消してもらったからトレモロと名乗っているようだ、それと白い上着を着ている人物、彼が二人を助けたメリアーノという奴だが……」

「……え?」
「メリアーノ?」
ゲールとユーミンが怪訝な表情になり、写真を食い入るように見た。
「ん? どうした、心当たりでも……」

「あり過ぎる。めちゃくちゃ心当たりがあり過ぎる」
ユーミンが厳しい口調で言う。
「どんな奴?」
二人の横に座っていたノエルが聞く。
その問いに、ゲールが重々しい声で答えた。

「こいつ、僕達の兄貴だ」


                            ◆


同刻 ルビーファミリー本部

「ああ、カトゥーナさん! ボスはもちろん、皆さん心配してましたよ」
カトゥーナが本部の廊下を歩いていると、彼の部下と思しき男が彼に声を掛けた。
「すまないな。実は風邪引いてて、外出ている間に熱出して倒れちまって」
「えっ!? だ、大丈夫ですか? 少し休んだ方が……」
「大丈夫。もう十分休んだし、さっきまで点滴打ってもらってたから、ほぼ普段通りの動きが出来るよ」
そう言って、彼は左腕の袖をまくって止血用のガーゼを見せた。
「そうですか……。まあ、無理はなさらないで下さい」
「十分に心得ておくよ」
「――あ、待って下さい」
彼は部下に背を向けてその場を去ろうとしたが、部下に呼び止められた。
「どうした?」
「えーと、今、暇ですか?」
「今日一日特に予定はないが」
「だったら、ボスの様子を見てきてくれませんか? 昨日の夜から様子がおかしいんです」
部下は心配そうな顔で言った。
「様子がおかしい?」
「はい。私は直接見てはいないのですが、ボスの部屋に出入りした何人かから話を聞いたところによると、昨日の夜からずっと気だるそうにしていて、今朝も朝から机に突っ伏して寝ていたと……」
「そうか……。分かった、見に行ってくる」
「お願いします」
部下は一礼し、急ぎ足で去っていった。

それを見届け、カトゥーナもボスの部屋へ向かった。
――そういえば、最近ミルトリーにやられたり、昨日のサファイアのことがあったりして忙しそうにしてたもんな。
――ストレスで体調崩したか?
――あ、でも、

「……まさか俺の風邪がうつっちゃったりして」

彼は一つ咳をすると、歩みを速めた。


                           ◆


ミルトリーファミリー本部 会議室

「「兄貴!!??」」
「え、二人ってお兄さんがいたの!?」
「初耳……」
部屋が驚きに包まれた。
それらの声を手で制し、ゲールが言った。
「ああそうさ、間違いなく僕達の兄貴だ。な、姉ちゃん」
「間違いないな。でも、こいつもこっちに来てたとはな。今までどこで何をやっていたんだが」
ユーミンが呆れ顔で嘆く。
「……えっと、その兄貴とやらについて、ちょっと説明してくれないか? 実は私も初耳なもので」
マリノが申し訳なさそうな顔で言う。
「いいですよ」
ゲールは全員と視線を合わせ、語り始めた。


メリアーノ・フォンデュン・ミルトリー――兄貴は、僕達よりも五歳年上で、今は十八歳。
僕達は当時シチリアの王子と王女で、中でも兄貴は小さいときから王だった父の後継者になるための教育を受けていた。
剣の扱いもとても上手で、王族一同からは十歳で「剣の王子様」と呼ばれていた。

今の僕達も、随分年不相応なことやってるけど、兄貴は色々な意味でずば抜けていた。
さっき言った剣の扱いもそうだけど、公の場での立ち振る舞いも大人びていたし、難しい魔導書みたいなのも読んでいた。
あと、父が、音楽が好きでフルートを習わせていたんだけど、それもみるみるうちに上達していったらしい。
詳しいところはよく覚えていないけど、子守唄の代わりにフルートの音色を聞かせてくれていたことははっきり覚えている。


ユーミンが二、三回頷いた。
彼女にも記憶があるらしい。

だが、「フルート」という言葉を聞いて「ああ……」と何かを思い出したかのような顔をしたサムには誰も気付かない。


色々と忙しかった兄貴だけど、何かと僕達のことを大事にしてくれた。
一緒に遊んだりもしたし、何回も怒られたりした。
でも最後はいつも、笑顔でいてくれた。


「けれどそういう日々は長くは続かないもので。『あの日』以来、生き別れになってしまった。……そして今に至る。――ざっとこんな感じかな」



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