リトル†ダンディー 本編 (メイン連載中) 21 「早いな、もう五時か」 「じゃあ僕、電話してくる」 元気は立ち上がり、電話を取ってダイヤルし、話し始めた。 「もしもし、『ブラロー』のゲールですが」 『ああ、ゲール君? 今夜、重要な仕事でもあるの?』 「はい。なのでいつものをお願いします。でも今回は九人前で」 『九人!? 何かあったの?』 「いつもの五人の分と、依頼人姉弟二人、それと……」 彼は皆の方をチラッと見た。 「大事なお客さんが二人来てるんでね」 『あら、そうなの。分かったわ。時間はいつもと同じでいいね』 「はい。おねがいします」 彼は受話器を置いて、皆の元に戻った。 「何の話をしてたの?」 梨花が聞く。 「『晩餐』の注文をしてたんだ。僕達、任務の前に豪華な食事を摂るんだ。いつ死ぬか分からないからね、この世界は。もちろん、ここにいる全員の分注文したから」 「あの、任務って……」 今度は明が聞く。 「そっか、洋一と明は知らないんだっけ」 「……と、いうことだ」 ブラローのメンバーが、任務の内容について説明した。 「まあ、君達は待ってていいからな」 「……あの、何で俺達泊まること前提に話してるんだ?」 洋一が遠慮がちに言う。 「それ、俺も思った」 明が同意した。 「いいじゃないか。まだ雨止まないし、この家寝るとこいっぱいあるし、明日休みだし、それに晩餐注文したし、ね? 泊まっていきなよ」 優子が反論を許さない口調で言う。 「……そうするか」 「……うん」 二人は顔を見合わせて言う。 「よし、じゃあ晩餐まで自由時間にしよう。解散!」 その一時間後、彼らは、パスタやピザなど、豪華なイタリア料理をたらふく食べた。 ◆ 午後八時半。 彼らは晩餐を食べ終え、再び夕方のようにリビングのソファや床に座っていた。 その表情は真剣だ。 「それじゃ、今夜の任務、『ゴーストの暗殺』について最終確認をする。ブラローの人は分かっていると思うが、これから先、任務遂行するまでは皆を本名で呼び合うこと」 元気------ゲールが言う。 「それは俺達もか?」 俊が聞く。 「できれば、な。その方がやりやすいしさ。あ、でも梨花と俊は今呼んでる名前が本名か」 「だったら、私達はこのままでいいの?」 「でもさあ、皆がカタカナの名前なのに、俺達だけ漢字の名前だと、ちょっと違和感があるんだけど」 「それ、俺も同意。今回は直接任務に関わらないけど、もしもこの先何かあった時俺絶対混乱する」 渉が言う。 「それなら、君達も僕達みたいに偽名作らない? 魔法、使えるんだし。 ……どちらが本名でどちらが偽名か、ていうのは逆になるけど」 梨花と俊は顔を見合わせたが、すぐに笑顔になって言った。 「じゃあ、そうする。……そうだね、私は『キャシー』がいいな。ファミリーに入るかどうかはまだ迷ってるけど、もし入ったら覚えてもらいやすそうだし」 「俺は『ノエル』。どっかの本でそんな名前の主人公が出てきて、めっちゃ格好よかったから」 「了解。梨花が『キャシー』で、俊が『ノエル』な。ならこれから明日の朝まで、その名前で呼ぶから」 「「はい」」 二人が返事したのを確認すると、ゲールは再び真剣な表情に戻る。 「……話が逸れたね。ここから本題に入ろう。今回の暗殺の標的(ターゲット)はルビーファミリーの日本への刺客、『ゴースト』。依頼者は彼の娘・キャシーと息子・ノエル。親子関係には矛盾している点があるが、それは任務遂行後に確認する。------依頼者二名、間違いないね?」 「「はい」」 「よし。次に今日の暗殺の手順を再確認する。まず現地に向かうのは僕、リッキー、ローリー、サム。ユーミンと依頼人二名、それと予定外の客二名は自宅待機」 「ちょっと待て。電話してた時には俺たちのこと『大事なお客さん』って言ってたのに、何で今は『予定外の客』なんだ?」 明が突っ込む。 「……言う相手の問題だ。まあ、それは置いといて。今度は現地での動きの手順だ。ミルトリー本部の情報収集班によると、ルビーはこの暗殺計画を知っていて、ゴーストに護衛をつけるらしい。だからまず、僕とローリー、サムが護衛を攻撃し、その間にリッキーがゴーストの元に向かい、暗殺。ローリーとサムは護衛を倒したら玄関周辺で見張り、僕は万が一の場合に備えて現地で待機。終了後、現地の片付けをしてこの家に戻る。本部への直接の報告は僕、報告書作成はリッキー。質問はないね?」 その場にいた全員が頷く。 「ならOK。十分前になったらブラローの人は玄関に集まってくれ。他の四人は来なくていいから。では、一旦解散」 ◆ それから彼らは、読書やテレビ、会話など、思い思いのことをして過ごした。 そしてあっという間に、その時間は訪れた。 午後十時五十分。 予定通り、玄関にブラッディ・ローズの五人が集まっていた。 「……いよいよだね」 「うん」 「そうだな」 「ま、いつも通りにやればいいさ」 「分かってるって。じゃ、行ってくる」 「行ってらっしゃい。連絡は携帯に入れて」 「了解」 現地に向かう四人は、玄関を出た。 「さてと、僕は気になることでも調べますか」 ユーミンは、一人呟くと、書斎へと入っていった。 ◆ 「……ここだな」 四人は、ゴーストの家の近くに到着した。 荷物になるので、傘は持っていない。 「電気は?」 リッキーが聞く。 「付いてない。でも人影があるから誰かいるのは間違いないな。ローリー、今何時だ?」 名前を呼ばれたローリーは、腕時計を見た。 「十時五十九分。後三十秒で十一時」 「よし、じゃあ、突撃準備だ。後サム、言い忘れてたけど、」 「防音壁、だね。分かってる」 「二十秒前」 「準備はいいな?」 ゲールの問いに、三人は無言の笑顔で頷く。 「なら、そっと近づけ」 一行は忍び足で家に近づく。 「ストップ。サム、壁」 サムは何かを唱えた。 すると、ゴーストの家の周りを藍色の壁が取り囲んだ。 「包囲完了」 「OK。これで派手にやっても大丈夫だ」 「皆、五秒前だ。Tre, due, uno……」 「Vada!」 「「「Si!」」」 ゲールのゴーサインと共に、四人は駆け出した。 ※・Tre, due, uno=三、二、一 ・Vada!=Go! [*前へ][次へ#] [戻る] |