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リトル†ダンディー 本編 (メイン連載中)
18
「おーい、連れてきたよー」
元気が玄関のドアを開けた。
「はーい!!」
それと同時に、家にいた三人が出迎えた。
「お邪魔しまーす……あ、優子、久しぶり」
明が軽く手を挙げる。
「こちらこそ。……つっても三週間ぶりだけど。洋一も久しぶりだな」
「久しぶり。ていうか、見慣れない人がいるんだけど」
洋一が梨花と俊の方を見て言う。
「ああ、この二人は梨花と俊。訳あってしばらく一緒に生活してるんだ」
「初めまして。白石梨花です」
「俺は白石俊。よろしくな。はいこれ、バスタオル」
俊は洋一と明にバスタオルを渡した。
「ありがとう」
二人はそれを受け取り、濡れた身体を拭き始めた。
「それにしても、びっしょ濡れだね。どれぐらい外にいたの?」
元気が聞く。
「そうだな……雨に濡れた時間だけなら、二十分ぐらいかな。なあ、洋一」
「多分それぐらいかな」
「そんなに!?」
洋一と明以外の四人が驚きの声を上げる。
と、その時、『お風呂が沸きました』というアナウンスが聞こえた。
「あれ、お風呂沸かしてたんだ」
「ああ。びしょ濡れのままじゃ風邪引くしな。どっちから入る?」
優子が口元に薄い笑みを浮かべながら言う。
「(姉ちゃん、何考えてるの?)」
元気が彼女にそっと耳打ちする。
こういうときの彼女はろくなことを考えていないからだ。
(まあ、見てみな)
優子が視線だけで返事をする。
一方、
「……」
洋一と明はお互いを見つめていた。
そして、二人がいきなりお互いに手を出した。
「……じゃんけんポン!」
洋一はチョキを、明はパーを出した。
「!?」
「よっしゃああ!」
勝った洋一は、荷物を置き、靴を脱いで玄関に上がった。
「あーっ、ちょっと待った!」
放心状態から我に返った明が、洋一のTシャツをつかんだ。
「何?」
洋一は不機嫌そうに振り返る。
「待ってる間、俺はどうしたらいいん? 濡れたままの服で人の家に入るのは気が引けるんだけど」
「ああ……確かにそうだな」
「別に気にしなくてもいいよ。後で拭けばいいことだし」
元気が助け舟を出す。
「でも……やっぱ、あれだな。濡れた服着続けるのも嫌だからな……」
「だから気にしなくていいって」
「……」

六人の間に、気まずい沈黙が流れる。

「じゃあ、一緒に入れば? ここの風呂、結構広いし」

「ええっ!?」

沈黙を破ったのは優子だった。
「ちょっ、ちょっと待て、それはちょっとまずいんじゃ……」
「……俺も」
元気と俊が頷く。
「だったら、他にどんな方法があるんだ? 一人ずつ入れば、必ずどっちかが濡れた服のままで待たないといけない。でも一緒に入ればその心配をしなくて済むだろ?」
「私もそう考えれば、それがいいと思う。ケンカもしなくて済むし」
優子の意見に、梨花が同意する。
「さあ、どうする? 別々に入って濡れた服のまま待つか、それとも一緒に入ってさっさと終わらせるか」
優子は再び口元に薄い笑みを浮かべる。
「……なら、一緒に入る」
「えええーっ!? 大丈夫か、明! つか正気か?」
明の言葉に、洋一は慌てる。
「はい、そうと決まったら早く入る! お湯が冷めるぞ!」
優子がそう言いながら、二人を無理やり風呂場へ誘導した。
「おい待て、俺は同意してないぞ!」
「洋一、もう諦めろ……」
明が宥めようとする。
「……分かったよ。その代わり、変なことするなよ」
「変なことって?」
優子がすかさず聞く。
「……もういい。さっさと入ろう。……そうだ、代えの服は?」
「そこに置いてるのを使ってくれ。ま、ごゆっくり」
そう言って、優子はその場を立ち去った。

「姉ちゃん……」
玄関に戻ると、三人が冷たい視線を優子に浴びせた。
だが彼女は、それを全く気にしていない様子だった。
「いいんだ。あの二人はああしとけば何とかなる。……あ、大事なこと思い出した」
「大事なこと?」
元気が聞く。
「うん。梨花と俊も聞くか?」
「え、いいの?」
「いずれバレることだからな。知ってて損はしない」
「だったら聞く」
「なら部屋に入って話そう。二人は先に入ってて」
「はーい」
梨花と俊はリビングに入って行った。

それを見届けて、優子は小声で元気に話しかけた。
「……今日来た二人、もう分かってるよな」
「もちろん。『あの日』の一ヶ月前に『禁書』をもらった子達よね?」
「そうだ。洋一が『ロタール』で、明が『ベルフ』だ」
「……もしかして、二人を裏社会に引きずり込む気?」
「そうだ」
「本気で?」
元気が怪訝な表情になる。
「じゃないとこんな風に二人きりで話してない。それに、あの二人をこれ以上放っておいたら、こっちの身が危ない」
「何で? 今のままのでもいいと思うけど」
「それじゃ手遅れなんだ。ルビーの目が日本にもあるって分かった以上、あっちも二人の情報をとっくに掴んでるはず。その気になれば、うまく丸め込んで自分達の戦力にすることも出来る。そうなったらこっちの分が悪くなる」
「そこまではっきり言える証拠は?」
「……今日のお前、いつも以上に手厳しいな」
優子は軽く溜息をつく。
「だって当然だよ。あの二人は確かに魔力は強いし、役に立つかもしれない。でも両方の『血』が混じっている以上、どっちに付くか分からない」
「だから今から説得して、完全にこっちの戦力にしておきたいんだ。参考までに言うと、今僕が確認できている『ミックス』は五人。ミルトリーに二人、ルビーに一人、そしてどちらにも属していないのがロタールとベルフ」
「え、こっちにもいるの!?」
「いるよ、誰とは言わないけど。で、この状況で二人があっちに付いたら2対3で、さっきも言ったようにこっちの分が悪い。しかもあっちのボスは特殊な家系だから、それを考えたら2対4でもおかしくない」
「なら逆に、こっちに付いたら4対1。あっちのボスをいれても4対2。……本当だ、だったら入れた方が有利になるんだ」
元気は納得した顔になった。
「分かったか? 二人を入れる? それとも入れない?」
「もちろん入れるよ。そして『ブラロー』の予備メンバーにしようかな。それと、この際だから梨花と俊も誘うか」
「そうだな。戦力は多いに越したことはないからな」
「よし、決定。二人が風呂から出てきたら、話し合うか!」

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あきゅろす。
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