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リトル†ダンディー 本編 (メイン連載中)
16
4人が双子の家に戻ると、ドアをノックする音が聞こえた。
「早いな。もう来たのか?」
ゲール、否、元気がドアを開けた。
「あ、お世話になります」
そこには、両手に荷物を抱えた梨花が立っていた。
「こちらこそ。結構待った?」
「いいえ、弟のお見舞いに行ってたので、今着いたところです」
「そうなんだ。……弟、どうだった?」
彼が心配そうに聞くと、彼女は笑顔で答えた。
「大丈夫です。私があなた達と会っている間に目を覚ましたらしくて。一応、今回のことは説明しておきました。いくつか検査をし、様子を見て、早かったら明後日にも退院できるそうです。大きなケガがなかったので」
「……良かった。まあ、ここで話すのもあれだし、上がったら?」
「はい」
彼女は家に上がり、元気について行ってリビングに入った。
「あ、荷物は?」
「そうだったな。そこの三人!」
彼はまだ玄関にいる三人に声を掛けた。
「二人の荷物を整理しておいてくれ。僕は彼女と話したいことがあるから。部屋は2階に上がってすぐの二つの部屋を使って」
「「「りょーかい!」」」
三人は早速、荷物を持って二階に上がった。
「……さて、と。聞きたいことがいくつかあるけどいいかな」
彼はリビングのドアを閉めた。
「もちろん、いいですよ」
彼女は快く応じた。
「じゃ、早速……と行きたいところだけど、何か飲み物とかいる? 麦茶と紅茶があるんだけど」
「うーん、麦茶で」
「はいよ」
彼は麦茶を冷蔵庫から出し、二つのコップに注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「いえいえ」
彼はソファに座ると、少しだけ麦茶を飲んだ。
心なしか心臓の鼓動が速くなる。
(大丈夫、緊張することはない)
そう自分に言い聞かせ、話し始めた。

「……さっきの話に出てきた哲郎さん、もといゴーストのことなんだけど、彼がルビーファミリーの人だってこと、知ってた?」
「いいえ。でも父さんが、『父さんは、魔法を使う組織にいて、そこで仕事をしているんだ』って言ったことはあります」
「そうか……。じゃあ、君は父さんが魔法を使えるということを知ってたんだ」
「はい」
「だったら、自分も魔法が使えるんじゃないか、って思ったことはない?」
「あります。でも……何か怖くて、父さんに聞いたことはありません」
「なら……今、調べてみる?」
「えっ!? で、出来るんですか?」
梨花は思わず大きな声で言う。
「出来るよ。やってみる?」
「出来るのなら、是非」
「じゃあ、その場に立って」
彼女は言われた通り、ソファから立ち上がった。
元気も立ち上がり、彼女の隣に行く。
「こっち向いて」
二人の視線がぶつかる。
元気の鼓動が、一瞬跳ねる。
(……落ち着け、僕……)
「……僕がいいって言うまで、動かないでね」
「……はい」
彼は目を閉じ、呪文を唱え始めた。

「Il suo potere magico di fronte ad occhi… Sì… Qualche genere… Ricupero… Una famiglia… ……!?」
(彼女に魔力は…… はい…… 種類は… 回復… 家系は… ……!?)

彼は目を開け、驚いた表情を見せた。

「どうしたの!?」
彼女が心配そうな顔で彼の顔を覗き込む。
「……君には魔力がある。種類は回復系。ここまではいいんだ。でも家系がおかしい」
「家系?」
「そう。魔法使いにはミルトリー家とルビー家という、二つの大きな家系があるんだ。二つの家系は昔から、そして今でも、敵対関係にあるんだ。まあ、その話は置いといて。君、母さんは魔法、使える?」
「いいえ。母さんは普通の人間だと、父が」
「……そっかあ……」
彼は、はあ、と大きな溜息をついた。
「……それで、何がおかしいの?」
「……普通、人間と魔法使いの子供は魔法が使える。優性遺伝だからね。でもミルトリー家と人間だったらミルトリー家の子が、ルビー家と人間だったらルビー家の子が生まれる。逆はありえない。でも君の場合、後者のはずなんだけど……」

「ミルトリー家の人、ってこと?」

彼女が言う。

「そういうことだ。弟も両親は一緒だよね?」
「うん。……じゃあ、弟も……」
「その可能性は高い」

(この件、絶対に裏があるな)

「……」
「……」

部屋に沈黙が流れた。

その時、
「終わったぞー!」
荷物を整理していた三人が戻ってきた。
「お疲れ。ちょっと休憩していく?」
「うん」
「俺喉渇いたー!」
「はいはい。……じゃ、さっきの話は後で」
「はい」
「ただいまー」
優子も帰ってきた。
「じゃあ、四人分だな」
元気は麦茶を四つのコップに注いだ。


                              ◆


二日後。
梨花の弟、俊(しゅん)が退院して、双子の家に来た。
「退院おめでとう! 怪我、大丈夫?」
「大丈夫、梨花に魔法で治してもらったから」
「梨花、もう魔法の使い方覚えたのか!?」
元気が驚いた顔で彼女を見る。
「ああ、僕が教えた。折角だからな」
しれっとした表情で優子が答える。
「姉ちゃん……」
「あ、そうそう。元気さん、だっけ。俺も魔法使えるか調べてよ」
「いいよ。でも『さん』は付けなくていいから」
「はーい。なら、お世話になります」
「こちらこそ」
井上家にまた一人、客が増えた。

俊の魔法について調べた結果、戦闘系の魔法で、しかも彼もミルトリー家の人だということが分かった。
優子も含めて四人で話し合った結果、この事に関しては今は深く考えず、暗殺が終わってから調べてみることになった。


                             ◆


同刻、イタリア某所。
ルビーファミリー本部のボスの執務室に、一人の男が入ってきた。
「リーダー、いくつかご報告が」
「そうか。どれぐらいあるのか?」
「二つです。一つは先日の『壷の国』についてです」
「ほう、犯人でも分かったのか?」
「はい。設置していたカメラなどのデータを分析したところ、ミルトリーファミリーの『ブラッディ・ローズ』の五人であると断定しました」
「……へーえ、あの血の薔薇のガキ達がねえ……」
リーダーと呼ばれたボスは、意味有り気な笑みを浮かべた。
「それだけではありません。迷い込んでメイドとして使っていた少女が、ミルトリー側の治癒士だったようです。しかもゲールと面識があったようで」
「おや、そうだったか。残念だなあ、あの子、僕もあの城のリーダーも相当気に入っていたのに。で、他に報告は?」
「はい、それなんですが……」
男が表情を曇らせる。
「……何か、深刻な事態でも発生したのか?」
「……実は、先程の五人が、日本にいる『ゴースト』の暗殺を企んでいる、という情報が」
「何!? とうとうバレたのか?」
ボスは予想外の事に慌てている。
「はい、彼の娘が五人に彼の暗殺を頼み、承諾。実行は現地時間で次の土曜日、午後11時」
「……そうか、分かった。誰か護衛を手配しておこう。報告はそれだけか?」
「はい、以上です。リーダーから皆さんに伝えることはありませんか?」
「いや、今回の件は僕が何とかするよ。報告、ご苦労さん」
「はっ、失礼しました」
男は部屋から出ていった。

(さて、と……あの子でも呼ぶか)

「呼んだか? リーダー」
「!?」
ボスがそう思った瞬間、目の前に突如、一人の少年が現れた。
「……サファイア、毎度ながらタイミングがいいな」
「何となく分かるんですよ、行った方がいいな、って。それで、頼みたいことがあるんだって?」
少年は笑顔で答えた。
「……本当、お前は勘がいいな。頼みたいことというのは、『ブラロー』からゴーストを守って欲しいんだ」
「ゴースト……ああ、日本で調査してる奴か。ブラローが絡んでるってことは、狙われてるんだな」
「そうだ。日時は向こうの時間で次の土曜の午後11時だ。引き受けてくれないか?」
「もちろん。……あ、いけない、用事思い出した」
少年は踵を返し、ドアに向かって歩き出した。
だが途中で立ち止まり、ボスの方を向いた。
「おっと危ない、忘れるところだった。俺からもブラロー絡みで伝えておきたい事が一つ」
「何だ?」

「あいつらと俺の通ってる学校に、俺と同じ血が流れてる人がいるみたいなんだ。しかも二人も、な」


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あきゅろす。
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