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喧嘩、その後(H-side)
 


【喧嘩、その後】



昨日、隆也と喧嘩した。
最初はメールだったけど、途中からめんどくさくなって電話した。
俺、今でも隆也とはよく喧嘩するけど、やっぱりその度に後悔する。言わなきゃ良かったって、何回も思う。
俺やっぱり、ダメだわ。
隆也と話すと、言いたい事は言えないし、言いたくない事はどんどん口から出ちまう。隆也の事傷つけたくないのに、大事に出来ない。なんなんだろうな、これ。隆也に嫌われるの、分かるのに。



は?知らねーよ。隆也が俺の事どー思ってるとかは、知らない。
でもやっぱり俺の事好きではないだろうし、好かれる事してもないし、嫌われてんだろうと思う。……うん、お前の言うとーりかもしんねぇ。ムカツクけど。



あの頃、隆也はいつも俺に付きっきりでいてくれたけど。俺隆也にひどい事ばっかしてたし。
全部が全部、腹立つんだよな。なんでか。心のどっかで感謝とか、安心とかの感情はあるんだけど、全部どす黒いモンで押しつぶされて、俺、隆也に一度も返してやれなかった。いつも自分の気分次第で動いて、相手の事とかお構いなしっていうか。


あーそーだよ、自覚くらいしてるっつの。でもあの頃は、変わろうって気力も出なかったし。
うん……してる。後悔。少し。……うん、結構。



シニアの時。俺、練習で手の平擦りむいた事があって。
そしたら俺より隆也の方が血相変えて走って来てさ、ベンチで救急箱広げて手当てしようとしてくんの。
俺自分でするっつったのに、隆也は黙って赤チン塗って絆創膏張って、気をつけて下さい、大切な手なんでしょって俺の目見ながら言ったんだ。
俺、その時の隆也の顔が未だに忘れらんねーんだよ。
心底俺の事心配して、そんで怒ったような、でも少し寂しそうな、すっごい見てらんない顔すんだよ。
そん時ばかりは、俺の中の隆也に対する諸々の気持ちが湧き出して来て、喉元まで出かかった。でもやっぱ、ダメだった。
言いたい事はたくさんあるのに、口から出るモンは全然違うものなんだ。「うるせぇ、放せよヘタクソ」って隆也の痣と傷だらけの手振り払って、その日はそれっきり隆也と口きかなかった。


そういう出来事の一つ一つがさ、もう思い出すだけで嫌になんだよ。
俺にとっても悪い思い出だけど、隆也にとってはもっと悪い思い出だろ。
隆也、よく我慢したなって。他人事みたいだけど、すげーなって思う。
本当は、ごめんって言いたいし、ありがとうって言いたい。
でもそれが言えない俺は、やっぱり今でも、隆也に何も返してやれてないって事だ。



俺はあの頃の延長で、まだ隆也に普通に接する事が出来なくて、昨日も喧嘩しちまったんだけど。
本当は愛想尽かされても良いのに。それでもまだ俺を見捨てないでくれるのは、多分隆也の優しさだ。



ばーか、そんなの、ずっと前から気づいてるっての。
だから俺、アイツから離れらんねーんだよ。アイツの事考えて、悩んだり悔やんだり、柄でもねーのにすんだよ。



あー、もうそろそろ行かなきゃな。
秋丸、今の話、全部忘れろよ。今すぐ忘れろ。
でも、聞いてくれてサンキューな。
って、お前になら、こんなの簡単に言えんのに。





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あきゅろす。
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