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喧嘩、その後(A-side)
 


【喧嘩、その後】



昨日、元希さんと喧嘩した。
いつもみたいに電話越しに怒鳴り合って、話も終わらない内に電話を切った。
喧嘩してる最中は、頭がぐらぐら沸いてもうなんでも言えちまうんだけど、ぷつっと声が聞こえなくなった途端、一気に冷めちまうんだよな。自分が何言ったかも覚えてなくて、そのまま放心状態になんだよ。謝る事もしないままさ。



え?……いや、違うと思う。
元希さんは多分俺の事なんか特別に思ってないし、昨日だってなんでもない些細な話題から、いつの間にか口喧嘩になってたんだよ。
俺ら、いっつもそんな感じだから。ていうか、俺がいっつも突っかかるのがいけないんだし。さすがのあの人でも、そろそろ嫌気が差してると思う。
うん、なんか、上手くいかねーんだよな。



でも元希さん、やっぱり変わったんだ。
喧嘩は相変わらずよくするけど、前みたく、あの人を怖いって思う事は無くなった。
あの頃は練習中ずっと一緒にいたけど、いつになっても近寄れないっていうか……そういうオーラみたいなのがあったから。
だから、今の方が、ずっといい。



シニアの時さ。元希さんが、練習で手の平擦りむいた事があって。
自分が傷つくのをすごい嫌う人だったから、俺の方が血の気が引いたよ。普通なら、なんてこたない小さな怪我なんだけどさ。
急いで救急箱引っ付かんで元希さんの手当てしようとしたんだけど、自分でするって、触るのさえ拒まれた。でも俺だってバッテリー組むもんとして、意地みたいなのがあって、もう無理矢理にでも手当てしたよ。

元希さんの手なんてほとんど触れる機会がなくて俺も緊張したけど、手当ての最中は元希さんも大人しかった。
元希さんの手は、俺の傷だらけの手に比べてすごい綺麗だったよ。ごつごつしてて大きくて、爪の形まで整っていた。
守られてんだろうなぁ、と思ったよ。この人自身に。大切に。俺はその手に、何度も振り回されて来たんだけど。

そん時俺は無表情の元希さんに、気をつけて下さい、大切な手なんでしょ、って言った。
すると元希さんの目が揺れてさ、何か言いかけたんだよ。
変な間があったから不思議に思ったんだけど、すぐに「うるせぇ、放せよヘタクソ」って元希さんらしい言葉で罵られた。
あの時一瞬だけ見せた元希さんの顔はなんだったんだろうって、今でも思う。
なんでって、あの瞬間の元希さんの顔が、すごく自然に見えたからだよ。



元希さんとの思い出って、やっぱり良い思い出より悪い思い出の方が圧倒的に多いんだよな。
自分でもよく付き合っていけたなと思うけど、でもそれは、俺があの人を心の底から嫌いになれていなかったって事だ。



俺達はあの頃のまま、お互い大人にもなりきれず喧嘩ばっかりしてるけど。
それでも俺は、これからもあの人と関わっていたいと思ってる。
多分、魅せられてんだよ。悔しいくらい。あの人に。



ってか、何言ってんだ、俺。
……は!?冗談じゃねーよ!そんなんじゃねぇ。それこそ、あの人に笑い飛ばされるよ。
いっつもサイテーとか、大っ嫌いだとかばっかり言ってんのに。
言えるか……馬鹿。



あ、チャイム鳴ったな。
長々と悪かったな花井、ありがとう。
こんな風に素直に、元希さんとも話せるんなら、きっと苦労もしねーんだろうけどよ。





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あきゅろす。
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