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よみもの~中等部編
9 ~kaoru

「海堂君、アカヤ君!!」

何度目かもう数えきれないくらいの溜め息をついた所で、かのんの声がきこえた
決して大きくはないが、よく通る声に切原も気付き俺達は同時に顔を向けると、
かのんが俺達に手を振っている

「ホラ、カノンちゃん呼んでるぞ?」
「お前も呼ばれてるけどな?」

俺達は腕を小突きあいながら、かのん達の輪へと足をすすめた
。。。といっても、人、人、人、で、かのん達にまっすぐ近づく事も出来ない
何度もすみません、と言い、何度も、人団子を迂回してやっとかのん達へとたどり着く

「ね?どう?素敵だったでしょ?」

かのんは興奮が冷めないらしく、飛びつきそうな勢いで俺に同意を求める

「まさかお前があんな風に出てくるとは思わなかったからな...」

「びっくりした?」

「まあな」

やっぱり俺の期待通り『期待を裏切ってくれた』かのんに、
これくらいは素直になってもいいだろう

舞台の上にいる時には遠目でよく見えなかったが。。。

「お前、化粧してんのか?」

着物や、コンクールや文化祭でドレスを着た時に薄いピンク色のリップクリームを塗ってた時とは違う

「うん...」

自分でも違和感があるのか何なのか。。。

「これでも薄く...なんだけど...」

かのんはやたらと、瞬きをしている
そして、俺に向いていた顔が、段々と下向きになり、ついには、身体ごと俺から顔をそらせた

「詩織ちゃんのお母さんにメイクしてもらったの
 全然塗らないと衣装に負けちゃうから、って...ヘン?」

「馬子にも衣装、だな」

本当は綺麗だ、と言いたいけど、そこで素直になれないのが俺だろ?

「ひどぉい」

その口調は拗ねる、というよりも、がっかりしたという感じで、
ああ、俺、ダメだなぁ、と少しだけ罪悪感
だけど今更、綺麗だの、似合ってるだのと言った所で、かのんは機嫌をなおしそうにもない

そんな俺の腕を小突き、切原が助け舟を出した
まあ、助け舟かどうかは定かではないが。。。

「海堂、お前、どうしてそうひねくれてんだよ?
 素直にキレイだね、って言えばいいだろ?ね?カノンちゃん?」

「ううん...」

「ホントはね、コイツ、カノンちゃんに見とれてたんだよ?」

俺は焦った
なぜなら。。。

「ううん、どうせ私じゃなくて、詩織ちゃん達に見とれてたんでしょ
 わかるわよ、それくらい」

なぜなら、本当は切原の言う通りだからだ
俺は確かに見とれていた

透き通るピアノの音
微かに靴が床を打つ音

青白いライトの下で、はかなげに、ゆらゆらと動く影をみていた
それはかのんが奏でるピアノの音そのものが見えているような不思議な感覚
かのんは薄暗い舞台の端で、ぼぅっと光ってるようだった
全てが幻想的、とでもういうのか
ただ、俺は青白く光るかのん達をみていた

かのんに。。。みとれて、いた。。。

キレイ、だったんだ

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