よみもの~中等部編
6 ~kaoru
俺達は５時過ぎには会場に着いた
そして時間をあけず、おばさんとおじさんも合流し、一気に賑やかになる
母さんは、かのんへの差し入れをおばさんに渡す
おばさんは早速、かのんに出て来れないかと、メールをしたが、
結局おばさんが、楽屋へ呼ばれることになったらしい
渡してきます、と、スタッフの人だかに連れられていった
それにしても夕べと今朝は大騒ぎ、だった
正確にはもう何日も前から、なんだけど。。。
母さんは、お洋服が汚れない様にしなきゃいけないし、とか、
お化粧落ちないようにしなきゃ、とか、さんざん悩み抜いて、小さなシュークリームを作った
俺の試合には差し入れをしてくれたことはないのにな
。。。別に。。。拗ねてなんかねぇし
おばさんが戻ってくると、もう開場時間になっていた
それじゃあ、と、ごったがえすロビーへと井戸端会議の場を移す
「優君と瑞希ちゃんもすぐ着くってさっき連絡あったから
先にお席だけとっておいたほうがいいかしらね？」
おばさんのその意見に全員が同意する
俺は、まあ、別に切原に義理立てしなくてもいいが。。。
切原にメールを送ると、直ぐに電話がかかってきた
（お前、どこにいる？）
「ロビー、俺の親とかのんの親も．．．席、とっとこうか？」
（あ、俺すぐ近くにいるから、ロビーで待っててくれねぇ？）
「おぅ」
やっぱりだ、
切原がいくら空気読めねぇからっつっても、やっぱ、独特の雰囲気だしな。。。
実は俺だって、一人だけ何だか場違いのような気がして、居心地が悪い
ここにアイツがいれば、場違いなヤツがもう一人増えるし。。。と、なんだかヘンな連帯感
俺は母さんに、知り合いがもう一人来るから、と、断って、ロビーで切原を待った
言葉通り、５分もせずに切原はロビーに姿を見せた
「すまねぇ、一人でいづらくて、よ」
切原は、へへっと人懐っこい笑顔をうかべて、本当、バツが悪そうだ
いや、それは俺も同じだが。。。
切原は、ほら、と俺にペットボトルのスポーツドリンクを差し出して、
自分も、飲みかけのドリンクをすべてあけた
開演５分前のベルで俺と切原は、いくか、とそれぞれにつぶやき、会場に入る
みんなはどこだろうと、首をめぐらせると、吉川先輩と目が合った
吉川先輩は、俺の顔を認めて、手を振って合図をしてくれる
母さん達大人グループは、４人並んで座り、
俺達。。。俺と切原、そして、吉川先輩とかのんの後輩用に、大人達の後ろに４席押さえていてくれた
俺達がごそごそと席に着くと、母さんとおばさんが振り向く
「あら、初めてのお友達ね？」
母さんの言葉に、おばさんが、あら、ホントね、と首をちょっとだけ傾ける
「あ．．．の、テニスの合宿とかで．．．知り合い．．．」
テニスのお友達なの？って、母さん達はもっと不思議そうな顔をするから。。。
って、当たり前だろ、ここは、俺とのつながりよりも、こっちを優先すべきだ
「あぁ．．．かのんちゃんが伴奏する人の、友達．．．」
友達、でいいんだよな？
カレシ、って感じでもないし。。。
俺は一応、誠意をもって控えめに切原を紹介したつもりだ、これでも。。。
「お友達って、詩織ちゃん？」
おばさんがにこり、と、よそ行きの笑顔を切原に向けると、切原はにかーっと笑う
「ハイ！切原赤也っス、ハジメマシテ」
この人なつっこさ、絶対コイツ、年上にはウケがいいタイプだ
母さんとおばさんへの第一印象は、合格、ってヤツだろう
さっそくおばさんが、切原に興味をもつ
「お友達？カレシかな？」
「ハイ！」
ウソつけ。。。
しかし俺は、それを訂正する義理もないし、
勝手に言ってる分には別に俺に害はないから、放っておく事にする
開演５分前に入ったはずなのに、まだ発表会は始まる気配がない。。。が、こんなもんか？
母さん達はたまに吉川先輩と何か。。。ショパンがどうのこうの、ってハナシをしている
ショパン？
ああ、なんかかのんが言ってたな、伴奏、ショパンの曲だって
それにしても、吉川先輩達が言ってるワルツがどうの、ナントカがどうの。。。さっぱりわからねぇ
父さん達は、すでにゴルフのハナシ
発表会は口実で、二人でワイワイしたいだけ、だろう
大きく溜め息をついてシートに深く座る俺の横で、
切原も俺と同じようにシートの背もたれにズルズルと、身体を滑らせた
「なあ、お前らって．．．」
「ぁあ？」
俺は目線だけ切原に向けると、ヤツは少しだけ間抜けな顔を俺に寄越していた
「なんかすげぇ団結してねぇ？」
確かに。。。
もう一度溜め息をつくと、ビィーーと、耳障りな音と共に、客席の照明が落ちた
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