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よみもの~中等部編
21 ~kaoru

12月28日...
年末最終日ということで、今日は練習が早く終わった
俺は急いでかのんのところへ行く
急げばピアノが聴けるかもしれない

あぁ、いた
俺は待合室の端に、かのんの姿を見つけた
今からだろうか?それとも、もう弾き終わってしまった?
走らない程度に、そして、不自然でないくらいの早さでかのんに近寄ると、
かのんと友達らしい女子のかげから。。。

「切原」

。。。なんでお前がココにいる?

「ぁあ?何でお前がココにいんだよ?」

それは俺のセリフだろ、なんでテメェがいんだよ?

「海堂君...練習、あれ?今日は早いね?」

かのんがふりむき、まあるい目を向けた

「知り合い?」

どうやら、切原の連れの女子も驚いているようだ

「立海の部長さん?春休みの練習試合で??」
かのんは顔を切原にもどすと、遠慮がちに口をひらいた
「よくおぼえてんな」
まぁ、こんなアホ面、一度見ればかのんじゃなくたって忘れようもない、か
それなのに、
「あ、俺の事、おぼえててくれたんだ?
 立海エースの切原赤也って、俺の事っス」
。。。切原。。。自分でそんな事言って恥ずかしくねぇのかよ?
まったく、バカだろお前。。。


それにしても、切原ももう一人の女子も、
正装とまでは言わないが、それなりに洒落た格好をしている
どっかに出掛けた後。。。?に、病院?
それとも、俺だけ状況がつかめてないのか?

「あのね、詩織ちゃんとリハビリの先生が一緒で...お友達になったの
 それで...」
あれ?とまたかのんは首を傾げる
「それでなんで、切原がここにいるんだよ」
だよね?と、小さくつぶやいたかのんは、その『しおりちゃん』へと顔を向ける

「このあと軽く食事して、バレエを観に行くの
 ロシアのバレエ団のくるみ割り人形...今日が楽日だから...
 ずっと憧れてて、自分でもチケットとってたんだけどね」
ちら、っと切原の顔を伺って、ちょっと複雑な顔をする
そして切原は、いつもの人懐っこい笑顔
「切原君のお父さんが、いいお席のチケットを頂いたから、って」
「そ!で、俺ン家、誰も興味ないしさ...あ!俺は違うけどね」
俺は吹き出しそうになるのを堪える
コイツがバレエだって?
「で、詩織ちゃんがよろこぶかなーと思って、誘ったんだ、ね?」
ホラ見ろ、かのんも『しおりちゃん』も、呆れた顔でお前の事見てるぞ

そして、切原の連れは、切原を邪険にしつつ、かのんにピアノを弾いてくれとねだる
かのんはピアノに着くと、ちょっとだけ首を傾げて何かを考えている風
そしていつものように、ふにゃっと笑ってピアノを弾き出す
こういうときは必ず、誰かをイメージしながら弾いてるんだ
この曲は誰のイメージだろう?
切原?それとも、こっちの女子?
それにしても。。。コロコロと笑ってる姿は、その辺の女子とはちがう
なんか雰囲気が特別な感じだ
俺はその『しおりちゃん』の顔を不躾にならない程度に観察する
。。。あ、多分この女子はきっと合宿所で切原がさわいでいた『カノジョ』だ
へぇ、確かにな。。。
女の容姿にあまりこだわらない俺ですら、この『しおりちゃん』は美人だと認める
これだけ美人なら、なにも切原じゃなくたっていいだろうに。。。

そう考えて、俺は苦笑した

かのんも。。。なにも俺じゃなくってもいいだろうに。。。

またじわり、と、ネガティブな感情がわいてくる
本当に俺で良いのか?
俺、全然お前に釣り合ってないんじゃないか?
俺。。。

俺は。。。弱くて、情けなくて。。。
それでもお前はこんな俺を認めてくれたんだろう?
そう、だろう?

不意にかのんが顔を上げる
俺と目のあったかのんは、ふにゃっと笑う

いや、今はそんな事考えずにいよう

俺がお前を欲しているように
お前も俺の事を欲してくれている

今はそれだけでいい
そう
それだけで。。。

そしてまたピアノを弾きはじめるかのん

ピアノを弾きながらも、時折俺に視線をくれる
その度に、ふわっと笑ってまたピアノに目線を戻す

悲愴。。。俺の試合のイメージだったな

お前の目には俺はどんなふうに映っているのだろうか
俺はこの曲のように強くなんかない
いつか。。。
お前の望む強い男に。。。なれるだろうか
いや、ならなきゃいけねぇよな?


ピアノを弾き終わったかのんに、まわりから小さな拍手が送られる
かのんはとてもうれしそうに笑って、ちょこん、と頭を下げるんだ

この笑顔がいつまでも続く事を

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あきゅろす。
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