[携帯モード] [URL送信]

よみもの~中等部編
9 ~canon

事務の窓口でピアノの鍵をもらって、サロンに行くと、
はずえクンが駆け寄ってくる
「そろそろかな、って、僕降りてきたんですよ?
 時間ピッタリでしょ?」
私と一緒にピアノにつくはずえクン
今日は何を弾くんですか?と、楽譜を覗き込む

「もちろん!はずえクンのテーマ曲、ショパンの蝶々!」

うん、今日は特別、調子いい♪
指がうきうきしてるカンジ?
さっき事務で今日は、時間いっぱい弾いていいって言われたから、
じゃあ。。。と、調子に乗ってショパンのエチュードを何曲か弾いた
。。。だって、楽譜、コレしか持ってきてないんだもん
こういう事は、早めに言ってもらえると大変助かります。。。って、
私、何様!?謙虚になりましょう、反省



本日のミニミニコンサート

〆はショパンのソナタ3番

この曲も相当弾き込んだ
だけど、まだまだ弾きこなせた感がない
それだけ奥が深い。。。
今日はちょっと冒険をしてみたい気分だった
まだ、心の底ではもやもやしてる
自分でもはっきりとはわからない、ドロドロした感情
それを吐き出してみたくなった

弾き始めてすぐに後悔した

指が思うように動かない
ううん、動いてる。。。動いてるんだけど。。。

なんだろう、この気持ち悪さは。。。

すごく、歪で。。。醜い

頭ではこんなのは違う、って思うのに、指が勝手に動く
こんな気持ち悪さは初めてだった
いつものような、弾き終わったときの爽快感はない
それどころか、とても後味が悪い


ふっと、身体の中にくすぶる気持ち悪さを息とともに抜くと、
後ろから沢山の拍手をもらった
振り返ってみると。。。あらら。。。
なんだかいつもより沢山の人が聴いてくれてたみたい

「かのんちゃん、お疲れさまでした
 今日はなんだか、いつもよりも迫力がありましたよ?」
「え...そう?」
はずえクンにもわかっちゃった?
そんなに、ヘンな弾き方だった?
同じ曲なのに、気持ち一つでこんなにも違うものなのかと、
聞いてる人にも、違いがわかってしまうものなのかと自分でも驚いた
そう、こんなショパンがあっていいのかもしれない
だけど
私はちがう
私はこんなショパンを弾きたいわけじゃない

自分の心の底にあるものと
理想とではこんなにも差があるものなのかと、
自分の醜さを改めて知った

本当に私、これでよかったの?
海堂君は、いいの?

私は海堂君の側にいたいと、本当に思ってる

だけど。。。側にいていい、と言う、自信が私には、ない
このまま、ただ笑って、海堂君の側にいられる自信がないの
いくら海堂君が望んでくれているからって。。。

それは永遠じゃない




ふぅっと息をつくと、はずえクンの優しい声がきこえた

「さ、片付けて、ケーキ食べに戻りましょう?」

私に差し伸べられる手

「ありがとう、はずえクン」

その手を素直にとる私
ありがとう、と、素直に。。。

[*前へ][次へ#]

11/37ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!