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よみもの~中等部編
8 ~hazue

しばらく惚けたように、ソファに座っていた
時計を見ると、そろそろリハビリの終わる時間になっていた

僕はサロンに行く前に、鏡で自分の顔をチェックする
うん、泣いた跡はもうない
情けない顔なんて君にはみせたくないからね

エレベータを降りた所で、かのんちゃんをみつけた
「そろそろかな、って、僕降りてきたんですよ?
 時間ピッタリでしょ?」
僕は。。。かわいい弟の葉末
ふふっと笑う君の顔に、その事を思い出す

ピアノにたどり着き、小脇に抱えていた楽譜をそっとピアノの上で広げる
「今日は何を弾くんですか?」
僕の問いに、ぱぁっと笑って
「もちろん!はずえクンのテーマ曲、ショパンの蝶々!」

君はふっと息を一つつく
そして、指が軽やかに鍵盤の上を跳ね回る
本当に、蝶が舞ってるみたいだ

この曲は僕のテーマって君は言うけど、
それよりも、かわいらしく笑う君にぴったりだと、僕は思うよ?

「今日はね、時間いっぱい弾いていいって言われたから...」

そう言って、エチュードの1番を弾きはじめる
初めて聴いたのは僕の家
そのすばらしさに、僕は息が止まった、なんて事があったなんて、
君はおもいもしないでしょう?

曲が終わり、パラパラと楽譜をめくる
ぎゅっぎゅとページを開いて、うーん、と唸るかのんちゃん

「新しい曲ですか?」

「んーーー、まだナイショ、なんですけどね
 来年のコンクールで弾こうかと思って、自分で勉強してるの」

そう言って弾き始めた曲は、それこそ、息つく間もない程に急がしそうな曲
それなのに、君の顔は笑ってるんだ
弾き終わったとたん、ふわぁ〜と、息をついて、くすくすと笑い出す

「やっぱりまだまだだぁ〜」

「それで...まだまだなんですか...」

目にも留まらぬ早業を目の前で繰り広げられて、僕は言葉を失ったのに?

「お母さんがいたら、楽譜を投げつけられる所よ?」

「はぁ...智子母さんってそんな人ですっけ?」

「はずえクンは知らないだけですよっ
 もう、鬼よりも怖いんだからっ」

あはは、と笑って、きょろきょろと辺りを見回す
「大丈夫です、智子母さんはいませんよ」
そう言うと、ちがうの、時間。。。と、時計を探す
時間を確認したかのんちゃんは、うん、と一人頷く

「今日の最後の曲」

そう言うと、ふわふわと笑う顔から、急に表情が消えた
じぃっと空をみつめる

あぁ、この雰囲気はコンクールの時のかのんちゃん
『遊び』で弾くときとは違う、張りつめた気が伝わってくる
スッと息をつくと、いつもの君からは想像もつかない程、厳しい顔になる

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