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よみもの~中等部編
3 ~kaoru

練習の後、いつもなら混み合う更衣室を避ける為に時間をずらす所だが、
今日は、急いで更衣室に飛び込んだ
シャワー最短記録を更新して、髪も半分濡れたままで、制服を着込む
その頃やっと更衣室へブラブラと戻ってきた桃城が、行くのか?、と、ニヤニヤ笑う
それだって、気にならない
おぅ、と、気のない返事を返し、荷物を背負って走る俺
一刻も早く、かのんに会いに行きたかった

病院前のコンビニで、約束のプリンを4つ買った
かのんの分、俺の分、そしておじさんとおばさんの分
あ、だけどかのんの事だ、きっと一つじゃ足りないな。。。

コンビニ店員の、7XX円です、と言う声に、我に返り
自分の顔が緩んでいた事に気付く。。。カッコ悪ぃ。。。

病室へ入ると、ぶすったれたかのんの顔が俺の目に飛び込んできた
でも、俺へ顔を向けたとたん、ふにゃっと笑う
ちょっと顔色が悪い?かな?
俺がプリンを差し出すと、かのんだけじゃなく、
おじさんもおばさんも、喜んでくれた

俺はすすめられるまま、巻き寿司をご馳走になる
ふと視線を感じて、顔を上げると。。。
かのんはプリンのカップ片手に、切なそうな顔で俺を、
いや、俺の持ってる皿を眺めていた

「何だよその、物欲しそうな顔」

この俺のセリフにおじさんとおばさんが笑い出す

「奏音ちゃんね、まだ、ちゃんとした固形物が食べられないのよ
 それでさっきも、ブーブー文句足れて、お父さんがヨーグルトを買いにいこうか、
 って言ってた所に、薫君がプリンをもってきてくれたの」
「本当にね!
 正直、助かったな〜なんて、おもったから、ね?」

おじさんは笑いが止まらない様子で。。。めずらしいな。。。
自分の分も食べていいよ、と、もう一つプリンをかのんへ差し出した

かのんのぶーっと膨らんだ頬は、それでふにゃっと崩れ、
2つ目のプリンをうれしそうに食べ始める
ホントに。。。ウマそうに食うな、お前は。。。

「よく食うな?」

目をパチっと一度だけ瞬いて、つーんと唇を尖らせる

「だっておいしいもんっ!」

こんな当たり前の。。。なんでもない表情を作る事ができなかったお前
いつも、いつも
俺に心配をさせまいと、わざとふざけて本心を隠していた
そうやってお前に、一人で我慢させていた
でももう、そんな思いはさせない


小さなチャイム。。。面会時間が終わった
おじさんは家まで送ろうと言ってくれたが、そこまで甘えるわけにはいかない
迷惑だから、とか、そういうんじゃない
自分のできる事は自分でする
そして、できない事、一人では難しい事は助けを求める
そういう態度の方が、お互いにいい関係を続けていける
その事をもう何度も何度も経験し、身にしみて理解した
まったく、鈍すぎるだろ俺

「また、明日も来る」

俺はおじさん達におやすみなさいと挨拶をすると、
おばさんはそこまで送るわね、と俺と一緒に病室をでた

「仲直り、できたみたいね?」

俺は戸惑いを隠せなかった
おばさんはそんな俺を笑いながら、まったくわかりやすいもんねー二人共、と言う

「奏音ちゃんね、ここの所ずっと不安定だったから
 ピアノ聴いてるとね、わかるのよ
 あーーー、荒れてるわ〜、って
 ショパンのソナタなんて、荒んでるっていうか...
 もうヤケクソになってたもんねー」

おばさんはそう言うと、俺の目をまっすぐ見る
目を逸らせたい程の気まずさがこみあげてくるのに、それができない
おばさんはどこまで知っているんだろう?
学校でのかのんへの嫌がらせ?
中傷?
俺達に関する。。。噂?
まったく知らない、なんてこと。。。あるだろうか?
それに、あれだけ派手な言い争いをしたんだ
いつものような、くだらない口喧嘩じゃない
何を言ったかなんておぼえてない程、俺は興奮していた
かのんだって、だ
きっとおばさんも、そして母さんも何かしら感じたはずだ

おばさんは俺の事を信頼している、と言ってくれたのに
かのんを傷つけるような事ばかりした俺をどう思っているんだろう
信頼に応えるどころじゃない、俺は、裏切ったんだ。。。
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになり、すみません、とだけしか言えなかった

「いいのいいの〜、気にしなぁ〜い
 でも良かった、二人が仲直りできてっ♪」

「すみません...」

「さぁて...
 コレで心置きなく、薫君をお家に招けるわねっ?ねっ?」

またおばさんは。。。俺をオモチャにするつもりだ
でも、俺は素直に、ハイ、と頷く
そう言ってもらえる事がうれしかった
だってそれは、まだ俺を信じてくれているからだろう?
おばさんは、ふふっと笑って、あーー!と、トボケた調子の声を上げて手を一つ叩く

「で、仲直りのちゅーはした?」

いつもの調子にのせられて、俺は、ハイ、と言いそうになったが、笑って誤摩化し、
また明日も来ていいですか?と尋ねると、
おばさんは、何をいまさら〜と、俺の背中をぽん、と押した

「ね、薫君」

「はい?」

「明日も同じ時間かな?」

「あ、はい」

「晩ご飯、何がいい?」

「いえ、家に帰って」

「それじゃ遅くなるでしょ?」

「...でも」

「ビーフシチュー、作ってこようか?具沢山の?」

そうだな、おばさんのビーフシチュー。。。
遠慮する事はない、よな?

「ハイ...じゃ、俺、来る前におつかい、スか?」

一瞬だけおばさんがひるんだようにみえた
ははっ、俺、今日は冴えてるじゃないか
さっきのおばさんの『トラップ』にも、ひっかからなかったしな
だけど『あの』かのんの母親だ、ここで勝ちって思い込むのは早急すぎる

「パンがいいならそうしてくれる?」

おばさんは、ふふん、と笑い、薫君賢い、賢い、と背中をポンポンと叩いた


結局おばさんは、駅まで俺と一緒に歩いた
別れ際に俺の背中を、ぽん、と叩く

「薫君」

「はい」

「ありがとう」

おばさんはふわっと笑う
初めて見た。。。おばさんがこんな風に笑う所

全てを許してくれるような、そんな優しい笑顔
そして
俺が一番安らげる、そんな雰囲気を作り出す笑顔
俺の好きなかのん顔と同じ、だ

「ありがとうございました...あの...」

ん?と、おばさんは小首を傾げ微笑む

「俺、おばさんのこと、好きっスよ」

その笑顔のまま、ぽかん、となる表情も同じ。。。
そして、一瞬の間、おばさんは大笑いをはじめる

「うわー!娘のカレシに告白されちゃったー!!どーしよっ」

そう言っていつものおばさんに戻る
だけど俺だって負けてない

「なんなら、トレード、考えてみますか?」

よしっ!穂摘ママと相談するから、期待して待っててね♪と、
俺の背中をボン!っと叩き、
早く帰りなさい、気をつけてね!!と、手を振るおばさん

なんか俺らしくねぇセリフをいっぱい吐いて、
自分でもおかしいな、と、思うけど。。。
かのんと、そしてかのんの家族といると、
俺は自分でも知らないうちに、変わっていってるんだと
そう、良い方に導いてもらえているんだと、そう思えて、
うれしくてならなかった


かのん、ありがとう

俺、お前を好きになって本当によかった

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