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よみもの~中等部編
5 ~takeshi

あれから。。。あの食事会以来、
海堂は、カノンちゃんとは一度も顔をあわさない
もう、いいってか?
もう、あきらめちまったか?
でも、そうなら何故そんなにイライラしてるんだよ
だんだんとテニスの練習にも、その精神状態が現れてきている

それなのに!
こんなヤツと俺がダブルスだって!?
まったく、冗談じゃねぇぜ

もう俺もそろそろ我慢の限界がきそうだった
あーあ。。。あの時と同じ、かよ
もやもやするだけで、何もできねぇ俺と、
イライラするだけで、何もしやがらねぇ海堂
アレからもう2年近く経っちまったっていうのに、
まったく、まーだうじうじする所は、成長してねぇし


海堂はいつも、帰りの時間をずらす
多分、込み合う更衣室とかシャワールームが苦手なんだ
前からそうだった

今日は宿題が多いから早く帰りたい所だけどな、
いい加減俺も、煮詰まってきてんだよ
コッチをとりあえず解消するしかねぇってモンだろ

練習が終わって、海堂のランニングに付き合い
というか、勝手についていったら、
いきなり振り切られて、ついムキになって全力疾走
バカかよ俺は


シャワーを浴びて着替えをすませる頃には、
周りにはもう誰も残っていなかった


「海堂、お前いいのかよ」


俺の問いかけに、海堂は無視を決め込む
あんときと同じじゃねぇかっ!!
まったくムカつく

「カノンちゃんの事、このままでいいのか?」

背中が大袈裟なくらいビクッと跳ねた
いいはずねぇよな?

「アイツが俺の事を嫌ってるんだ、しょうがねぇだろ?」

普段、感情を表に出さない海堂が、にや、と笑う
コイツはかなり無理してる

「お前、ハズエにとられちまうぞ?」

その言葉に、海堂は顔を上げた
なんだよそのマヌケ面は。。。
まったく鈍いにも程がある

「ハズエに、カノンちゃん...このままじゃとられちまう
 それでもいいのか?」

「バカ言うな、あいつらは」
「バカはお前だ
 ハズエはな、カノンちゃんの事、好きだ
 姉ちゃんとか、友達とかってんじゃない
 一人の女として、好き、だ」

「何言ってんだよ、そんなはずは...」
「そんなハズ、ねぇってか?
 フンっ、まったくおめでてぇヤツだな
 アイツらみてみろよ、いい雰囲気じゃねぇか?」

そこまでいうと、海堂にも思い当たる節があるのか
それとも、もう自分には関係ないと思っているのか
目を落とし、また荷物をいじりまわす
もうとっくに帰る用意はできてるくせに

「カノンちゃんは、な...
 ずっと一人で我慢してきた
 お前の事が好きで、好きで、
 好きだから、お前に甘えられられずに...
 お前の重荷になりたくないって、な
 愚痴の一つも言わずに、ずっと
 ...我慢してきたんだろ?
 だけどもう、限界だった
 それくらい追いつめられてた
 それなのに...」

一緒だろ?
俺は一年の時の事を思い出す
カノンちゃんはずっとイヤガラセを受けていた
それを知っていたのに、何もしなかった海堂
そんなお前にハラが立って仕方がなかった

そして、どうにかしてやりたかったのに、
どうしていいのかわからなかった俺は、
海堂に八つ当たりをした
そんな自分にも、悔しくて、腹立った

それだけじゃない
あの後、お前はカノンちゃんを傷つけた
俺がどれだけ、お前を許せなかったか想像がつくか?
もし俺だったら、絶対に好きな女を傷つけたりはしない
何故あの時、俺は何もしなかったんだ。。。そう、自分を責めた

「それなのに
 立っていられなくなった時に、お前に突き放されて、
 誰かしら手を差し伸べてくれたら、
 ソレにすがっちまったとしても不思議じゃねぇ
 そこにすがりたくなった所で、責められねぇだろ?
 カノンちゃんは、それぐらい弱りきってた
 ハズエはな、きっとどこかで待ってたはずだ
 お前達の関係が崩れるのを...」

海堂は俺を睨みつける
フン、遅ぇんだよ気付くのが、
お前だって言ってただろ、ハズエはしたたかだ、って

「怒んなよ...こればっかりはな、兄弟も何もあった事じゃねぇ
 それに、こんなこと、ハズエが考えてたかどうかはわからねぇし、
 もしかしたら、ハズエ自身だって気付いてないかもしれねぇ
 だがな、好きな女が救いを欲していた
 自分だけが救ってやれるんだ、って、その手応えを掴めば...
 欲が出たって責められないだろう?」


もしあの時、
俺が『なにか』していたら、今とは違っていたんだろうか?
俺、何考えてる?俺はユカちゃんが好きなんだろ?
そうさ、俺はユカちゃんが好きだ


「それなら、それでいい
 葉末も、かのんも...その方が...
 かのんだって、辛くなっ!? ...何しやがるっ!!」

その海堂の声で、自分が、ヤツの襟元をねじり上げている事に気付いた

「お前、やっぱり、救い様がねぇほど、バカだ
 そうだな、こんなバカに心を砕いて、疲れちまうよりも
 やさしいハズエと一緒にいる方が、
 カノンちゃんだって幸せだろうよ!!」
「だったら!」

何で海堂なんだよ?
何で?
なんでカノンちゃんはコイツを選んだんだよ

「まだわかんねぇのかっ!!!お前っ
 あの子がどんな気持ちだったか、考えた事があるか!?
 本当にカノンちゃんが好きだったら、
 そんな事、しちゃいけなかったんだよ!!
 前にもこんな事があったよな?お前は」
「ああ、わからねぇっ!!!
 テメェが言ってる事も、かのんの事も!」

殴られそうな勢いだった
だけど、海堂は拳じゃなく言葉で俺を殴りつけた

「俺だって、どうしたらいいかわからねぇんだよっ!!

 俺だって、ずっとかのんの事を考えてきた
 アイツがどれだけ不安だったかも、いつも、考えてた
 でもアイツもお前だって、俺の事わかってねぇだろ!?
 アイツ、何度も何度も泣きながら、自分が悪いって責めて
 その度に俺がどんな気持ちになってたかわかるか!?!?
 俺の力が足りねぇせいだ、って、俺がつまんねぇヤツだから、
 アイツをこんな風に泣かせちまうんだって、惨めになるんだよ
 でもな!俺に何ができる!?

 俺だって、不安なんだよ、我慢してんだよっ!!!!!」


涙を浮かべて、それでも鋭い眼でにまっすぐ睨みつけてきやがる

イヤになる

あの時と同じじゃないか。。。

コイツはこんなにもカノンちゃんを愛している
そうさ、お前はそれだけで、カノンちゃんを自分のものにした
そうだろ?お前は、彼女の全てを
心も、身体も、お前は奪ったくせに
それなのに
いまだにどうしていいかわからねぇ、なんて、よ。。。
まったく、鈍くて、バカで、どうしようもねぇヤツ、だ。。。

だけど

やっぱ、敵わねぇ。。。


コイツのカノンちゃんへの想いには敵わない


「...なら...どうしてそう言わない...」

「...あ...」

海堂は我に返り、乱暴に拳で涙を拭った

「どうして、カノンちゃんに...そう、言わないんだよ」

「そんなコト言ったら、アイツまた、おかしくなっちまう」

お前はそうやって、強がって。。。踏ん張って。。。
ずっとカノンちゃんを支えてきたんだろうな?
でも、お前も限界だったんだ。。。きっと

「俺な、ユカちゃんと大げんかした事、ある
 自分勝手な感情を押し付けて、
 依存しあう仲なんてまっぴらだ、って
 俺、ユカちゃんに鼻で笑われちまったよ
 本心を言わずに内にこもって、
 探り合うような仲なんて、ホンモノじゃねぇ
 じきに疲れちまう、ってな
 まさに今のお前らがそうだろう?
 結局お前ら、お互いの事、何にもわかっちゃいねぇ

 カノンちゃんに言ってやれよ?
 
 弱くて、情けねぇ...コレが本当の俺だってな」

「そんな俺なんて、アイツにとって何の価値もネェだろっ!」

「それならそう言ってやれよ?
 カノンちゃんが期待してるような男じゃねぇって」

「っなっ!?」

海堂はまた鋭い視線を俺に刺し込んだ
だが、すぐにその勢いをなくす
きっと自覚はあるんだ。。。
そして、葛藤も

「本心をぶつけ合って、ケンカして、怒鳴り合って
 それでも、納得できねぇんなら、仕方がない

 でもな、ソレで壊れちまったんなら、納得もできるだろ?
 お前ら...ハズエも、このままだと、ずっと引き摺って、
 結局、どこにも『本気』がなくなっちまうんじゃねぇか?」


そういう俺の『本気』はどこにあるんだろうな?

ユカちゃんが好きだ、っていいながら
まだ、彼女への想いを引き摺ってる俺

もう、俺ができるのはここまでだ

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あきゅろす。
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