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よみもの~中等部編
5 ~karou

選抜チームでのオーダーが仮決定した
なんで俺と桃城がダブルスなんだよ
最悪のコンビネーションじゃねぇか。。。

練習が終わり、各々が更衣室へ引き上げていく

俺は込み合う更衣室が苦手だ
だからいつも練習が終わったらラケットを置いて、
かるくその辺りを走り、時間をずらす
桃城も今日はその俺に倣う
まったく。。。鬱陶しいったらありゃしねぇ


もう更衣室には数人しか残っていなかった
シャワーで汗を簡単に流し、着替えをすませる頃には、
俺と桃城だけになっていた

「海堂、お前いいのかよ」

いいはずがねぇだろっ、お前とのダブルスなんて

俺は桃城を無視して荷物をまとめる
そんなおれの背後で、桃城は小さく舌打ちをしながら、
もう一度口を開いた

「カノンちゃんの事、このままでいいのか?」

俺は必要以上に緊張していた
だけど、俺に何ができる?

「アイツが俺の事を嫌ってるんだ、しょうがねぇだろ?」

そう、桃城に笑ってみせると、
ヤツは、何も言わずに、荷物を乱暴にバッグに放り込んだ

「お前、ハズエにとられちまうぞ?」

コイツは何を言っているんだ?
俺は何だ?と開きかけた口をぎゅっとつぐむ
目の前に、侮蔑の目を向けた桃城がいた
なんでお前なんかに、そんな顔をされなきゃならねぇんだよ

「ハズエに、カノンちゃん...このままじゃとられちまう
 それでもいいのか?」

「バカ言うな、あいつらは」
「バカはお前だ」

桃城は俺の言葉を遮った

「ハズエはな、カノンちゃんの事、好きだ
 姉ちゃんとか、友達とかってんじゃない
 一人の女として、好き、だ」

「何言ってんだよ、そんなはずは...」
「そんなハズ、ねぇってか?」
桃城はハナで俺の事を笑う
「まったくおめでてぇヤツだな
 アイツらみてみろよ、いい雰囲気じゃねぇか?」

そうかも、しれない
もうそれなら、それでいい
そのほうが。。。いいんだ。。。きっと

「カノンちゃんは、な...
 ずっと一人で我慢してきた
 お前の事が好きで、好きで、
 好きだから、お前に甘えられられずに...
 お前の重荷になりたくないって、な
 愚痴の一つも言わずに、ずっと
 ...我慢してきたんだろ?」

お前なんかに言われなくたって、
そんなことは俺が一番良く知っている
だから
俺は何もできなかったんじゃないか

「だけどもう、限界だった
 それくらい追いつめられてた
 それなのに...」

桃城は、歯を食いしばって
何かを我慢しているようだった
何か、だって?そんなのはわかってる
俺は桃城の拳に力が入るのを見逃さなかった

「それなのに
 立っていられなくなった時に、お前に突き放されて
 誰かしら手を差し伸べてくれたら、
 ソレにすがっちまったとしても不思議じゃねぇ
 そこにすがりたくなった所で、責められねぇだろ?
 カノンちゃんは、それぐらい弱りきってた
 ハズエはな、きっとどこかで待ってたはずだ
 お前達の関係が崩れるのを...」

俺は葉末のことをその辺の下等なヤツらと同類にされた気がして、
桃城を睨みつけた
だが、そんな俺をせせら笑う

「怒んなよ...こればっかりはな、兄弟も何もあった事じゃねぇ
 それに、こんなこと、ハズエが考えてたかどうかはわからねぇし、
 もしかしたら、ハズエ自身だって気付いてないかもしれねぇ
 だがな、好きな女が救いを欲していた
 自分だけが救ってやれるんだ、って、その手応えを掴めば...
 欲が出たって責められないだろう?」

それ以上は何も聞きたくなかった
もうそれならばそれでいい
自暴自棄、とも違う
俺にはアイツを支えてやれるだけの力はない
もう。。。気力すらも残ってない。。。
諦めに近い気持ちだった

「それなら、それでいい
 葉末も、かのんも...その方が...
 かのんだって、辛くなっ!?
 ...何しやがるっ!!」
桃城は俺の襟元を掴み睨みつける
「お前、やっぱり、救い様がねぇほど、バカだ
 そうだな、こんなバカに心を砕いて、疲れちまうよりも
 やさしいハズエと一緒にいる方が、
 カノンちゃんだって幸せだろうよ!!」
「だったら!」

俺は桃城の手を振り払った、が
その瞬間に左頬を殴られた

「まだわかんねぇのかっ!!!お前っ
 あの子がどんな気持ちだったか、考えた事があるか!?
 本当にカノンちゃんの事が好きだったら、
 そんな事、しちゃいけなかったんだよ!!
 前にもこんな事があったよな?お前は」
「ああ、わからねぇっ!!!
 テメェが言ってる事も、かのんの事も!」

それから先を、桃城に言わせたくなかった
それ以上言われると、自分のハラの中をぶちまけてしまいそうになる
他人に指摘されるほど、悔しい事はない

それなのに、俺は、口を閉ざす事ができなかった

「俺だって、どうしたらいいかわからねぇんだよっ!

 俺だって、ずっとかのんの事を考えてきた
 アイツがどれだけ不安だったかも、いつも、考えてた
 でもアイツもお前だって、俺の事わかってねぇだろ!?
 アイツ、何度も何度も泣きながら、自分が悪いって責めて
 その度に俺がどんな気持ちになってたかわかるか!?!?
 俺の力が足りねぇせいだ、って、俺がつまんねぇヤツだから、
 アイツをこんな風に泣かせちまうんだって、惨めになるんだよ
 でもな!俺に何ができる!?

 俺だって、不安なんだよ、我慢してんだよっ!!!!!」

どろどろと、醜い俺の本心、本性が流れ出す
そうさ、俺はかのんに見合うだけの男じゃない
わかっていたんだ
だけど認めたくなかった

俺はアイツが無理をする姿をみるのが辛いんじゃない
そんなかのんを支えてやれない自分が惨めで、
どれだけ自分が何も持ってないのかを知るのが辛くて
そこから目を背けたかっただけだ
本当は
アイツの事なんか考えてなんかいない
俺は
俺の事ばかりで
かのんのことを、言い訳にしていただけだ。。。

強いフリをして、
なにもかもわかったフリをして

傷つけ
奪い
都合のいい言い訳をし
そして
伸ばされた手を振り払った

そんなことをしておきながら
未だに、かのんにすがりついてる



「...なら...どうしてそう言わない...」

「...あ...」

声がかすれていた
もしかして俺、泣いてるのか?
みっともねぇ...

「どうして、カノンちゃんに...そう、言わないんだよ」

「そんなコト言ったら、アイツまた、おかしくなっちまう」

アイツは俺に。。。
『強い俺』を望んでいるんだ

「俺な、ユカちゃんと大げんかした事、ある
 自分勝手な感情を押し付けて、
 依存しあう仲なんてまっぴらだ、って
 俺、ユカちゃんに鼻で笑われちまったよ
 本心を言わずに内にこもって、
 探り合うような仲なんて、ホンモノじゃねぇ
 じきに疲れちまう、ってな
 まさに今のお前らがそうだろう?
 結局お前ら、お互いの事、何にもわかっちゃいねぇ

 カノンちゃんに言ってやれよ?
 
 弱くて、情けねぇ...コレが本当の俺だってな」

「そんな俺なんて、アイツにとって何の価値もネェだろっ!」

「それならそう言ってやれよ?
 カノンちゃんが期待してるような男じゃねぇって」

「っなっ!?」

俺はカッとした
なんでお前なんかにそんなコトをいわれなきゃいけねぇんだよ
そう言い返してやりたかった

だけど

桃城の言う通りだ
俺は、かのんの期待してるような男じゃない
おまえのそばにいたから
『お前の望んでいる俺』のフリをして強がってるだけだ


「本心をぶつけ合って、ケンカして、怒鳴り合って
 それでも、納得できねぇんなら、仕方がない

 でもな、ソレで壊れちまったんなら、納得もできるだろ?
 お前ら...ハズエも、このままだと、ずっと引き摺って、
 結局、どこにも『本気』がなくなっちまうんじゃねぇか?」


『本気』って、なんだよ?

俺はいつだって。。。


いつだって


逃げてばかりだ

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