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よみもの~中等部編
22 ~kaoru

かのんがエレベーターから降りてきた
顔に赤みが差し、うっすらと汗をかいて髪の毛が頬に張り付いてる

エレベーターホールからピアノまで
こんなに遠かったっけ?
ミニコンサートの日、俺達を見つけて、
ピアノからここまで駆けてきたかのん
たった数歩に感じられたのに。。。
それなのに今はこんなになっちまって。。。

心もとない足の運びに、駆け寄って抱き上げてやりたくなる
でも
もう、俺にはそうする事はできないんだろ?
悔しくて、辺りを殴りつけたくなる
みっともねぇ。。。な。。。
ジーンズのポケットに引っ掛けてる指に力が入った


やっとピアノの前に座ったかのん
いいな
すごく幸せそうに笑ってる

俺はこんな風にわらってるお前をみていたかっただけなのに


そしていつもの儀式
宙を見つめてスッと息を吸った


最初の音が鳴った時だった
ここからでもわかる
かのんの顔が歪んだ

「うわ、やった...」

医者が、つぶやく
「無理でしょう、ちょっとやめさせましょう」
「いえ、自分でやめる、っていうまでは...」
おばさんの冷たい声
かのんと一緒に練習をしていた時に発せられたのと同じ『あの声』だ
「いや、アレ、相当痛いはずです」
「自分で『無理だ』って、納得するくらい痛くないと、
 言う事なんてききませんよ
 14年半母親やってる私が言うんです、間違いない!」
と、笑う
「アレくらいじゃ痛いだけで、骨に入ったヒビが大きくなるとか、
 折れたりはしないでしょう?
 自己責任です、我慢させます」
「お母さん、厳しいですねぇ」
医者も苦笑いだ
「いえいえ、あの子が頑固なんですよ
 人にやめさせられたら、もっと、だだ捏ねてやりたがりますから」

おばさんと医者の会話を気に留めながら
それでも、やっぱり俺はお前のピアノに惹き付けられる
いや、お前の姿に

「それにしても、すごいですね?」
「そうですか?
 まだまだ、です...まったく甘ったれてますから」
「でもコレくらい弾ければ、コンクールでも?」
「それなり、です」

でも
お前が我慢してるの見るのイヤなんだ
そんなに我慢してまでピアノが弾きたいという、
お前の事、すげぇと思うよ
だけど、な。。。
お前の言う『価値』って何だよ?
こんなに我慢する事が、
無茶をする事が『価値』だっていうのか?

俺にはますますお前がわからなくなってきた

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