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よみもの~中等部編
16 ~kaoru

しばらくして、桃城が飲み物を買いに行く、と言い出した
それを合図に、葉末と西森が自分達も、と病室をでる

わざとらしい。。。
気をきかせてくれたつもりかもしれない
だが、今の俺にとって、これ以上気まずい気分になることはない
かのんだって、すごくイヤそうな顔で他所を向いている
         

「すまなかった...」

何を言っていいのかわからなかった
ただ、沈黙が辛くて、意味もなく口をついて出ただけだ

「俺...その」

「海堂君、何も悪くないよ?
 コレは、私の不注意、だから...
 私がぼけーっとして、転んじゃっただけだもん」

そんな俺に対してかのんは、わざとらしい程に明るい声でこたえる
だが、決して俺の顔を見てはくれない

「俺...」

「海堂君とはずえクンが、付き添ってくれたんでしょ?
 お母さんも、助かった、って言ってたよ?ありがとうね?」

「すまねぇ」

俺、そんなコトバをききたいんじゃない

「来週末の中四国のコンクールは、出られそうにないけど...
 でもね、あきらめられなくて、出たいってだだ捏ねたら、
 お医者さんにまで、怒られちゃった、ははっ」

いっその事、酷く罵ってくれた方が、辛くない

なぁ。。。頼むから、こっちを向いてくれないか?
どんなに俺の事を、睨んでもいい
どんなに俺の事を、蔑んでもいい
頼むから。。。

頬に触れた瞬間、身体をこわばらせて、かのんは叫んだ

「やめてっ!」

「!?」

ここまで激しい拒否をされた事なんて、いままでなかった

かのんの事を本気で怒らせた時だって。。。
あの時ですら、俺の目をまっすぐに睨みつけた

それなのに今はもう、目さえもあわせてくれない

。。。鋭い声。。。拒絶。。。

「ぁ...ごめん...
 あの、いつみんなが戻ってくるかわからないよ?」

「かのん」

「それにしても、みんな遅いなぁ〜
 ホント、どこまで買いにいったんだろうね?」

やけに明るい声で

「かのん!」

「なんか私ものどかわいてきちゃった」

俺の言葉が聞こえていないふりをする

「頼むからっ!!」

そうやって、俺を無視するのはやめてくれないか?


やっとかのんが顔を向けてくれた。。。だけど。。。

「...何?」

あぁ、まただ。。。

「頼むから...
 もう、やめてくれよ...」

「何を?」

また、あの時と同じ
感情のない顔。。。冷たい声

「そうやって、お前、我慢して...何になる、ン、だよ...」

その声に、酷く傷ついた時の記憶が、俺の胸をかき乱す

「そう、ね...
 私もいい加減、イヤになっちゃう
 どうせがんばった所で、誰も認めてくれない
 いつだって、バカを見るのは私」

それが。。。本音。。。なのか?

「お前...」

本音、なんだろう。。。
俺だって、薄々感づいていた
だけど、自分自身をごまかしてきた
『そんなはずはない』と。。。

「海堂君も、でしょ?
 もうイヤになっちゃってるんでしょ?
 私のせいでいろんな事言われて
 我慢してまで、一緒にいる程の価値、私にはないでしょ?」

価値、だって?
お前の価値って、なんだよ?
お前、自分に価値がないとでも言うのか?
本当に価値のないのは俺だろ?
お前にとって、なんの価値もないのは、俺だろ?

「違う
 俺、俺は...」

俺の為に我慢するのをやめてほしいだけ、だったんだ
こんな俺の為に。。。

「...もう...」

もう。。。
俺、もうお前と一緒にいられないのか?
もう、俺の事、いらない、のか?

何もできなかった俺
何の価値もない俺

こんな俺と一緒にいる価値は。。。ない

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あきゅろす。
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