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よみもの~中等部編
10 ~hazue

医者が退出したのを見計らい、僕たちは、小さくドアをノックして病室へと入った
ぼぅっとした表情のかのんちゃん
まだ、よく状況が飲込めてないのかもしれない
気付いたら病院にいて、こんな大怪我を負っていれば、誰だってそうだろう
僕は声を掛けようと、スッと息をのんだ時、カノンちゃんが叫んだ

「コンクールっ!!!」

「コンクール、じゃないわよ...」
かのんちゃんのお母さんは呆れたように言う
「だって!もうすぐ!!
 私帰る!ピアノ練習しなきゃっ!!!」
だけどかのんちゃんは、そう、金切り声をあげる
かのんちゃんの口からこんな声がでるなんて。。。

「無理言わないの」
かのんちゃんのお母さんは、溜め息をつきながら、
とても残念そうに、そしてなだめる様な口調で告げる
「指は動くもんっ!弾ける!!帰るっ!!」
こんな切羽詰まったかのんちゃんなんて見た事ない
いつも、いつも
かのんちゃん、キミはふんわりと笑ってたじゃない。。。

何がそんなにキミを追い詰めてるの?
何がそんなにキミを辛くさせてるの?

。。。ホントはね、僕は知ってるんだ

全部『薫』だ、って。。。
キミを縛ってるのは、薫兄さん、でしょう?

「無理...するな、よ...そんなに無理しなくたって」
そう言う兄さんの言葉を遮るように、かのんちゃんは叫ぶ
まるで噛み付くように。。。
「海堂君にはわからないわよっ!
 海堂君には...いつも結果を出してきてる海堂君にはっ!
 私が、どれだけっ...っ...」
大きくしゃくりあげて、それでも、かのんちゃんの叫びはとまらない
「私だって、できるって...できるって証明してみせるしかないじゃないっ!!」
鋭く突き刺さるような、かのんちゃんの叫び
それなのに、兄さんは。。。
「お前...何言って...」
兄さんは、呆然としている
「そうよ!言うのは簡単よ!!!
 でもねっ、私だって、いっぱい我慢して」
今度は兄さんがかのんちゃんの言葉を遮る
「俺だろ!?
 俺のせいだって言えよ!!
 お前はいつもそうだ
 そうやって、
 がんばらなきゃいけねぇって!!」「薫、いい加減にしなさいっ!」

馬鹿な兄さん。。。

「もうやめろよ、やめてくれっ!!」
「もう沢山よっ!!」「奏音ちゃん!よしなさいっ!!」
「海堂君にはわからないっ
 私がどれだけ惨めな気持ちになってるか
 我慢してるんかなんて、わからないでしょ!!!」
「お前だってわかってねぇっだろっ!
 俺だって、俺だって息が詰まるんだよっ!!」

一番言っちゃいけない事ですよ、それは

かのんちゃんは息をのみ、
涙があふれてるのに、それにもかまわず、兄さんを見据えている
いや、睨みつけているんだ

僕は、あくまでも自然に、
かのんちゃんの兄さんへのその鋭い視線を、
僕自身の身体で受け止められる様、彼女の傍らへと移動する
ホラね、隙が。。。できた
ねぇ、かのんちゃん。。。兄さんを睨んだ所で、何もなりはしませんよ?
「そうですね...かのんちゃん、がんばってるんですよね?
 コンクール、出場できますよ
 でも、今ここで、怒鳴り合ったってなんにもなりませんよ?
 お医者さんにもちゃんと相談して、出ましょう?ね?」
僕の言葉に、かのんちゃんの、張りつめた気が一瞬で砕ける

僕は、なんて狡猾なんだろう
こんな時でさえ、どうやって兄さんから彼女を奪うか。。。
どう言えば、どういう態度をとれば、彼女が振り向いてくれるかだけを、
それだけを考えながら。。。ひとつひとつ言葉を選ぶ

泣き崩れる彼女の肩に手を添え
そう、やっと。。。だ
やっと僕はキミに触れる事ができる
兄さんじゃない
本当にキミの気持ちをわかってあげられるのは僕だけだよ、って
キミも、この手をまっていたんでしょう?
肩に添えた手を背に滑らせ、優しくさすってあげますよ
もう一つの手は、そう、キミの手を握ってあげる。。。
でも焦っちゃいけない
あくまでも僕は、キミの大好きな人の弟
その役をちゃんと演じきって
そして。。。

それから、だ

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あきゅろす。
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