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よみもの~中等部編
3 ~hazue

「海堂〜、お前、兄ちゃんのカノジョの事が好きなんだって?」
「何ソレ?」
「ウワサになってんぞ〜?」
そんな事、キミに言われなくても、わかってるよ
コレだけ派手にさわがれてるんじゃ、
世事に疎い兄さんの耳にすら入っちゃうだろ?

僕は、ふぅっと、大袈裟に溜め息をついてみせる
「そうだよ?僕はかのんちゃんの事が大好きだよ?
 それのどこがいけないのかな?」
クラスメイト達が途端に囃し立てる
「うわ〜〜、それって、三角関係ってヤツ!?」
「あのなぁ...」
もう一度僕は溜め息をつく
「『好き』にもいろいろあるだろう?
 僕だって、君の事が好きだし、君も僕の事が好きだろう?
 そういう恋愛感情のない『好き』だって、この世の中には存在する」
自分で言ってて可笑しくなる
何、屁理屈、コねてるんだ、って
「よくわかんねぇな...」
まったく。。。程度が低いにも程がある
「僕は兄さんを尊敬してるし、かのんちゃんの事も尊敬している
 だから、兄さんの事を好きだし、かのんちゃんの事も好き
 それにね、彼女は僕の友達だ
 例え兄さんのガールフレンドじゃなくても、ね」
周りで、ふぅ〜んと、わかってるのかわかってないのか、気のない声があがる

「よ〜するに...その、なんだ...」
言葉が見つからないでいるようだ
「そうだね、君達もかのんちゃんのピアノを聴いてみればわかるよ
 僕が、彼女を尊敬する気持ちもね
 ホントにスゴいんだから」
「へぇ〜、そうなんだ?」
「うん、今は友達だけど、最初は彼女のピアノのファンだったんだよ、僕」
あはは、と笑ってみせてやるよ、満足かい?
「そんなにスゴいのか?」
「うん...それにね、高等部にもすごい人がいるんだよ、吉川さん
 彼も素晴しい演奏をするんだ、初めて演奏を聴いた時は、息が止まるかと思ったよ」
こうやって、話題をすり替えれば。。。
「へーーーー、なんか、そういうのきいたら、聴きたくなってきたな?」
簡単に、僕のトリックにひっかかる
あっけないものだ
「だろ?音楽の岩崎先生の生徒さ
 放課後、音楽室でレッスンしてる日に、こっそり聴きに行ってみたらいいよ」
「へぇ〜〜、海堂、お前ってよく知ってるな?」
「だから言ったろ?
 僕とかのんちゃんは友達なんだって...こういう話もよくするし、ね」

こうやって明け透けにする方がいい
僕がかのんちゃんを『友達として』好きだと、公言しておけばいい
そして
ピアノのファンなのだと
そのうちに、ウワサはウワサでなくなる
そう、海堂葉末は、薫のガールフレンドに恋しているんじゃない
薫のガールフレンドとは、仲のいい友達だ、と、周りが納得する

いや、納得するはずだったんだ
そして、何事もなかったように、誰も関心を寄せなくなると、そう思っていた
それなのに、ウワサは中傷へと変わり
どんどんかのんちゃんだけが、追いつめられていっている

それを感じながら、知りながら
兄さんは何をやってるんだ

このままじゃ、かのんちゃんは、
兄さんを想うかのんちゃんは追いつめられ、
いずれ、兄さんを想うことに疲れてしまうかもしれない

妙に自分の口の端が歪むのを感じた

本当は、兄さんから奪ってしまいたい程、
僕は彼女の事を愛している
兄さんに負けないくらい
いや、兄さんよりも、僕は彼女の事を愛してる

だけど、かのんちゃんは『薫』を愛してる
そして薫兄さんもそれを知ってるんだ
知ってるから、兄さんは何もしない
何もしなくても、かのんちゃんは薫を愛してくれるから
だからって、ね、兄さん。。。
いつまでもそれが続くと思うのは奢りですよ

今の僕に、彼らの間に割って入る隙なんてない
だから
かわいい弟のフリをして側にいる
いつか隙ができるかもしれない
そう、隙ができる『その時』を見逃さない為に

『それ』を望んでる僕

なんて浅ましいんだろう

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あきゅろす。
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