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よみもの~中等部編
12 ~kaoru

手伝いをはじめてすぐ、
かのんは、憔悴しきった、という言葉がぴったりな程、暗い表情で階段を上ってきた

「お母さん...ちょっと練習見て欲しいんだけど...
 ...3番...岩崎先生の言う事、上手くできなくて...」

おばさんは、ふぅ。。。と大きな溜め息をつくと、俺に、
ごめんね、コレ、お願いできる?と告げ、手を洗ってエプロンをはずす

そしてかのんは、疲れた表情で俺に向き直った
「海堂君、ゴメンね...ちょっと、ココだけ...」
それでも、笑ってみせるお前に、気の利いた事ひとつ言ってやれない
「いいよ...気にするな」


ちいさいリビングのピアノ
その前に、二人は座り練習を始めた

すごい。。。
さっきまでのおばさんとは全く別人だ
やっぱり、母娘、一見おもしろ系でも、ピアノの前では『別人』になるらしい

俺は、キッチンで野菜をあらったり、ジャガイモの皮を剥きながら、
その二人の様子を眼の端に捕らえながら聴いている

かのんは泣きながら、何度も何度も挑戦する
おばさんが怖くて泣いてるんじゃない
できない事が悔しくて泣いてる
去年、同じような事があった。。。

「泣くなら下でやってきなさい」

おばさんが、ばっさりと斬りつけるように言葉を投げた
決して怒鳴ってる訳ではないのに、その声に、俺は震えた

「泣いてないっ!!!」

そして、かのんの声もかなり鋭かった
腕で乱暴に顔を拭い、楽譜を睨みつけ、自分の指を睨み。。。
そして、またピアノを弾き始める
お前。。。本当に厳しい世界にいるんだな。。。

「できるじゃない」
おばさんは、けっしてやさしいとはいえない口調で、あっさりと告げる
俺はその言葉にホッとしたが、かのんは、唇を噛み締め、まだ悔しそうにしている
「もう少し...下で練習してくる...」
ピアノを片付け、楽譜をぎゅっと抱える
階段に踏み出したかのんは、キッチンにいる俺に向き直り、
その泣きそうな顔をふにゃっと歪ませた
「海堂君...ごめんね...」
「いや、いい...」
ここで、頑張れと言えない
その言葉はかのんを追いつめる事になる。。。

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