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よみもの~中等部編
12 ~canon

何度やっても、やっても。。。やっても。。。
どうしてもできない
そのうちに、何がダメなのかさえ、わからなくなってきた

お母さんに教えてもらおう。。。

お母さんは岩崎先生の後輩。。。
同じ門下生だったから、解釈も似ている所がある
どんなに厳しいレッスンでも、
こうやってすぐ側に、教えて貰える人がいることは、
他の人よりも恵まれているとおもう
そして、何よりも、容赦ない分、的確に欠点を言い連ねる
ヘタに優しい言葉で説明をされるよりも、単純で、わかりやすい

泣きそうになるのを堪えて、リビングへあがると、
海堂君とお母さんがキッチンでなにか楽しそうにしてる
そっか。。。海堂君。。。今日は勉強会だったのに。。。
わざわざ家まで来てくれたのに、私、何やってんだろ。。。
こんな練習、やめてしまいたい
私も一緒にキッチンで晩ご飯の支度したい
他愛のない会話、一緒に笑って、ただ同じ時間を共有していたい
海堂君と一緒にいたいのに。。。
もうそれだけで、涙が浮かんでくるのがわかった
でも、泣いてどうにかなるはず。ない。。。

「お母さん...ちょっと練習見て欲しいんだけど...
 ...3番...岩崎先生の言う事、上手くできなくて...」
お母さんはふぅっと、大きく溜め息をつく
仕方ないわね、って、言ってるようなもの、だ。。。
「海堂君、ゴメンね...ちょっと、ココだけ...」
ごめんなさい。。。
せっかく時間を割いてくれてるのに、
全然それに応えてあげられない自分にも嫌気がさす
「いいよ...気にするな」
気にするな、か。。。
またそうやって、海堂君は我慢するんだね。。。
私は、海堂君に我慢をさせてしまうんだね。。。

リビングのピアノにつき、ここがよくわからない、と指し示すと、
お母さんは、とたんに、厳しい顔になる
そして、弾いてみて、と抑揚のない声
弾き始めて。。。正確には最初の和音を鳴らした所で、いきなり指摘される
「左手ちゃんと鳴らして」
そして弾き直す
しばらく、何も言わず、じぃっと様子をみてる
「そこ右手、転んでるって言われるんでしょ?
 ちゃんと指一本一本を独立させてないからよ
 音の粒が偏ってるから、よけいに、転んで聞こえるの」
やっぱり。。。岩崎先生と同じ事、言われた。。。
お母さんは、フッと小さく息をつく
それだけの事にビクつく私って、
どれだけお母さんのレッスンを怖がってるんだろう。。。
「ゆっくりで、スタッカートで弾いてみて、ちゃんと移動意識!」
言われた通り、やってるつもりだった。。。でも
「スタッカートだからって手は浮かさない!指だけ!!独立させて」

岩崎先生のレッスンでの練習法とは違う
だけど、なんとなくアタマでは理解し始めた。。。どうして、ウマくいかないのか、を
わかってる、わかってるのに、どうしてできないの!!!!!
悔しくて、涙があふれてきた

「泣くなら下でやってきなさい」

「泣いてないっ!!!」

泣いてるヒマなんかない


何度同じ箇所を弾いただろう
指の腱が突っ張り、腕の筋肉が張りつめて、肘が重い

「できるじゃない」

悔しい

「もう少し...下で練習してくる...」

悔しい

「海堂君...ごめんね...」

こんな無様な姿を、海堂君の前に晒してしまった情けなさに、怒りさえ湧いてくる

「いや、いい...」

ごめんね。。。
私がもっとしっかりしてれば、こんな情けない音を聴かずにすむのにね
もっとしっかりしてれば
海堂君は自分の事だけに一生懸命になれるのにね

私のせい。。。だよね。。。

何もかもが、悔しい

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