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よみもの~中等部編
5 ~kaoru

「海堂君、おめでとう...で、いいのかな?」
かのんはちょっと考えながらそう言う
「何が?」
「部長なんだってね?」
「あ...あぁ...」
正月明けのミーティングで決まった
しかし、俺は素直に喜べなかった
手塚部長や...以前の部長達を知っているからこそ思う
俺には、部長の資質なんてない
今まで好き勝手にやって来た、協調性なんてかけらもない
その上、人望もない
その俺が、部長?
俺はてっきり桃城が部長だと思っていた
だから、ミーティングで、素直に俺には無理だと、伝えた
部長は桃城の方が適任だ、と
だがこれは、手塚部長以下、引退する3年全員の意思だという

「自信...ない?」
かのんはうっすらと笑う
からかってるんじゃない、それは目を見ればわかる
俺は素直に頷いた
「俺に、部長なんて...勤まるはずねぇ...」
「どうして?」
どうして?そんなことわかりきってるじゃないか。。。
口をひらくと、キツい口調で言ってしまいそうで、俺は唇を噛んで堪える
しかしかのんは、そんな俺とは対照的に、
いつものふにゃっとした顔とおだやかな口調で言葉をつなげる
「最初からね、みんな完璧じゃない
 きっと手塚先輩...あ、どうかな?手塚先輩は別として...」
くすくすと笑う
「あの人は別よね、うん、でも、最初から自信のある人なんて、いないと思うよ?
 ねぇ...海堂君、前に私にいった事、おぼえてる?」
かのんはふわっと笑いながらいう
「『まわりの要求が高いってことは、それだけお前がやれるって信じてるからだろ?
  諦めるなよ、ソイツら、みかえしてやれよ』って、ね?言ったよ?」
かのんはわざと声を低くして、俺の口まねをし、笑顔を向ける
だが俺は素直に頷く事が出来ない
それだけ部長の任は俺には荷が重すぎる
「初めっから完璧な人、いないよ...
 だから、探りながら、自分に足りないトコ、出来ない事は
 他の人に助けてもらったら...いいんじゃない?
 それって、恥ずかしい事じゃないと思う」
俺は言葉がみつからなくて...ただ、かのんの肩を抱き寄せるしかなかった

「俺、やっぱり無理だ...」
そう言う俺の背に、かのんは優しく腕をまわした
「助けて、って、ね、言うの難しいよね?
 でも、言わなきゃわかんないよ?
 言葉に出さなきゃダメって、海堂君も言ったよね?
 ...らしくないぞ、海堂薫っ!」
バシッ!と、派手な音を立てて、俺の背中を叩く
「...って!!お前なぁ...」
大して痛くは無かったが、俺はわざと、叩かれた背中に手を回す
「気合い、入ったかな?」
「痛ぇよ、バカ」
「うん、その方が海堂薫らしいぞぉ!
 頑張れ!海堂部長っ
 愚痴だけなら、いくらでもきいてあげる、『愚痴だけ』ね?
 だって、物理的には無理ぃ、あ、私って役立たずだぁ〜、あははっ」


  そうやってふにゃふにゃと笑うお前に、何度、勇気付けられたか知ってるか?
  俺、お前がいなかったら、きっと。。。どっかでいろんな事あきらめてた
  どれほどお前が俺にとって、大切だかわかんねぇだろ?
  俺だって。。。わかんねぇんだから。。。俺。。。。。


俺はかのんの身体を強く抱いた
泣きそうに歪んだ自分の顔を見られたくなかった
けど。。。それ以上に。。。
「どうしたの?」
さっきまでとは違う雰囲気にかのんは直ぐに気がついた
「俺...」
「もしかして、殴っていい場面かな?」
冗談めかして言う、が、かのんの身体が硬くなり、怯えているのがわかる
「お前...抱いても...いいか?」
こんなに大切なお前を手放したく無い、手に入れたい
自分のものにしたい、という、独占欲
それだけかもしれない
だが、俺は、かのんを抱きたい、と、いう不意に沸き上がった欲望が押さえられなかった
だから、つい、口にしてしまった、その言葉を。。。
言ってしまってから気付いた
それに、俺にはわかっていた
かのんには、まだその準備はできていない
あれだけ。。。あれだけ、怯えていたんだ。。。
そうだ、拒否されてもかまわない、今じゃなくても。。。いい。。。
ただ、俺にはお前が必要だと
伝えたいだけ。。。
わかっている、慌てる必要はない
こうして、お前を抱きしめているだけで、それだけでも満たされるんだから
今は。。。
「ごめん...俺...」
かのんの身体にかけた力を緩めた時、かのんの腕が俺の背中にまわされた

俺にはかのんの、この行動の意味が直ぐには理解できなかった
かのん?お前、わかってるのか?
俺が言った事。。。本当に?

「...いいのか?」

俺の腕の中のかのんは、ただ、その俺にまわした腕に力を込めた

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