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よみもの~中等部編
8 ~kaoru

俺はこのままかのんを帰すわけにはいかない
とっさにそう思った

「もしもし、薫です」
(あら、奏音ちゃん、まだ帰ってないのよ)
「すみません、今、一緒にいるんです
 俺、部活が遅くなってしまって、待っててくれたみたいで」
ウソも方便。。。っていうのか?この場合。。。
(そうなの?)
「ハイ、あの...」
(はいはい、今日は特別よ?
 でも、門限には間に合うようには、かえして頂戴ね?)
「すみません」
おばさんは、こういう事はすごく物わかりがいい
とりあえず、これで時間をそんなに気にする必要はなくなった
あとは。。。

俺はどこか人目を気にせずに話のできる場所に行きたかった
が、そんな場所、あるのか?
真っ先に浮かんだのは、部室だった
本来、部外者は入る事はできない
そしてその規則を守らせるのが俺の役目だ
だが
そんなのクソくらえだ

「来いよ!」

そう手を引く俺に、まったく抵抗どころか、反応すらしない
おかしいだろ?

俺はかのんの手を引いたまま、足早に部室へと向かう
幸い、誰にも会わなかった
そして、誰も俺達の事を見ていなかった事を祈るしかない

もし見られていたら。。。

この際、そんな事はどうでもいい
後で考えればいい事だ

今は

俺は部室のドアを素早く開きかのんを中にいれた
鍵を閉めたとたん、かのんは俺の手を振りほどき、部室から出ようとした
「待てよっ!」
俺はかのんの肩をつかんだ
が、それがいけなかった、それはかのんを怯えさせる事になった
「い...やっ!」
俺の腕を振り払い、拒否する
俺は暴れるかのんの腕を掴み、力一杯引っ張った
かのんはバランスを崩し、倒れる
そして受け止めようとした俺も、一緒に床に転がった
「いやーーっ!!!」
そのことで、かのんはパニックに陥り、悲鳴に近い声を上げた
「落ち着けっ!」
こんな所で、大声を上げられて、誰かに気付かれるのはマズい
俺はかのんの身体に乗り上げ、手で口を塞いだ
かのんの目が恐怖で大きく開かれている
わかっている、そんなことは。。。
こんな目に会って、怖くないヤツなんていない
でも、俺にはこうするよりほか、パニックを起こして暴れるかのんを抑える術を知らなかった

「落ち着け...何もしねぇから...
 約束したろ?俺、お前の嫌がる事はしないって...」

俺はできるだけ静かな声で伝える
だが、かのんの身体はまだ、力が入ったまま、震えている

「何もしねぇ...
 だから、大声だけはださないでくれ
 俺、お前と話がしたいだけだ」

かのんの見開いた目からは、ぽろぽろと涙がこぼれている
俺は少しだけ、口を塞いでいた手の力を抜いてみた
どうやらこれ以上、声を上げたり、暴れたりする様子はなさそうだった
俺は身体を起こし、かのんを解放した
抱き起こしてやっても良かったが、それでまた、怯えさせたくはなかった
だから俺は、かのんが自分で起き上がるのを待った
身体を起こしたかのんに手を差し伸べてみる
かのんは素直に俺の手をとり、立ち上がった

「大丈夫か?
 どっか、痛めてねぇか?」
ふるふると頭をふる
「制服、よごれちまったな?
 俺、はらってやってもいいか?」
こくり、と頷く
俺はポンポンと背中についた土ぼこりをはらってやった

「海堂君も...」

かのんの小さな声がきこえた
「ん?」
「よごれちゃった...」
俺は力が抜け、顔が緩んだ
「そうだな、背中、はらってくれるか?」
またこくり、と頷き、俺の背中をポンポンとはらってくれた

「座らないか?
 あ...人が来たらマズいから、電気はつけねぇけど...いいよな?」
かのんはやっと顔を上げて、すこしだけ笑ってくれたような気がした
窓からはなれたベンチに、かのんを座らせ、二人の荷物もその横に置く

「俺、まだお前のチョコレート食べてねぇんだけど?」
俺はかのんを笑わせようと、言ったつもりだった
それなのに、また涙をぽたぽたと流す
お前。。。どうしちまったんだよ?

「なあ、前にも言ったけど...
 言わなきゃわかんねぇだろ?
 俺、お前がこんな風に泣くのみるのは、いやなんだよ...」

できるだけゆっくりとかのんの身体を抱き寄せた
まただ
さっき手を引いたときと同じ
かのんは、何の反応も見せず、ただ泣いている
「かのん?俺、何かしたか?」

かのんの口から発せられた言葉は、
いつものように、俺の予想の遥か斜め上を行くものだった
だが、いつものように、俺を笑わせたり、呆れさせるものではなかった

「もう...イヤなの.....」

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あきゅろす。
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