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よみもの~中等部編
5 ~canon

「よぅ...」
ゆっくりとドアがあき、海堂君が教室へ入ってくる
「海堂君、部活お疲れさま」
テニスバッグをごそっと担ぎ直し、手にはチョコが沢山詰まった紙袋
「寒くねぇか?」
「ちょっとだけね」
だって、寒く無いっていっても、きっといろいろと気を使っちゃう人だから
ホラね、と、指を暖めていたカイロを取り出し、海堂君にみせる
少しでも、安心してくれるかな?

海堂君は、机に荷物をおろしながら、私のすぐ横の椅子に座る
それにしても、スゴい量のチョコ
「たくさんもらったねぇ...去年の倍以上あるんじゃない?」
「お前もそれに貢献してくれるんだろ?」
海堂君は、フンと、ちょっと意地悪っぽく鼻で笑う
「あれ?海堂君期待してるの?」
「別に...こんなにもらったからな
 もう十分だろ?」
なぁに、それ、私にヤキモチでも焼かせたい訳?
。。。でも。。。
「あぁ、よかった、期待されてたらどうしようと思ったてたから...
 こっちは、はずえクンね
 生チョコ...ちゃんと保冷剤入れて持ってきてたんだから
 ほら、ね、まだ冷たいでしょ?
 そして、こっちは海堂君のお父さんへ
 リカーボンボン...私、このコアントローとキルシュのボンボン、すっごく好きなの」
海堂君は眉をしかめる
でも、不機嫌な顔じゃなくて、呆れた顔
「ちょっと待てよ、それ、酒が入ってんだろ?」
「まあまあ、気にしない、気にしない」
こんなのお酒のうちに入らないって。。。
でも、沢山食べたら、確実に酔っぱらっちゃうけどね
「で?」
「うん、海堂君、デリバリーよろしくおねがいします♪」
海堂君の顔が、ぴくっとひきつる
「で!?」
「ん?」
今度は私が意地悪をする番
「俺は?」
「はい?」
し〜らな〜いな〜〜〜
「俺のはっ!?」
「あれ、私昨日のメールでちゃんと伝えたと思ったんだけど...」
みるみるうちに、さっきまでの海堂君の意地悪っぽく自信に満ちた顔が、沈んでいく
「わかったよ、ちゃんと渡しとくから...」
ふっふっふ
私に意地悪しようなんて、100万年はやいのだよ、海堂薫クン
朝、私の事怒鳴りつけた仕返しもふくまれてるのっ、なーんてね
「ありがとうねっ
 あ、そーだ、私、自分用にチョコ買ったんだけど、一緒に食べる?
 部活で疲れたでしょ?
 ホラ、疲れたときは甘いものがいいっていうじゃない?」
ホントはそうじゃない、そんな事思ってない
「はぁ?」
「あ、そっか、海堂君、沢山貰ったから、十分だよね
 うん、そうだね、貰ったの食べればいいよ
 みんな勇気振り絞って海堂君に渡したチョコだもん、ありがたく頂きなさい
 きっと彼女達もそのほうが喜ぶでしょ?」
「お前...それって、俺に意地悪してるつもりか?」
本当に意地が悪いのは私。。。
「まさかっ
 私はねぇ、海堂君にチョコを渡した女の子達の気持ちがよくわかるから
 だから...ちゃんと食べてあげて欲しいな...」
そう、わかるからこそ。。。
食べてあげて欲しいと思うけど。。。

いやだ。。。私。。。

「いいのかよ?」
「なぁに?」
「お前、なんでヤキモチ焼かねぇんだよ?」
ヤキモチなんてかわいい感情じゃない
私は。。。
「海堂君だって、ヤキモチ焼かないじゃない?
 私が不二先輩、不二先輩って言っても」

ほんとは嫉妬してる
海堂君がいっぱいチョコレートをもらってるの、ホントは嫌
私のだけでいいの
そう言いたいのよ、本当は

「俺、お前のチョコレートも食べたい」

海堂君がそう言ってくれるのが、本当にうれしい
そんな海堂君のことが本当に好き
でも、ふざけてしまう
だって。。。

「そう?じゃ、一緒に食べようか?」
「そうじゃない」

だって、本音がバレたら、嫌われちゃう。。。

「海堂君」
私だって、海堂君に『一番』のチョコレートを贈りたい
そう素直に一番にして、っていいたいの

「海堂君?」
お願い、気付かないまま。。。私のわがまま、きいてくれないかな。。。
「海堂君、一緒に食べよ?」
「...いらない」

ごめんね、これは私のエゴ

「私は、一緒に食べて欲しいんだけどな...
 折角...自分用に...海堂君と一緒に食べようと思って買ったんだよ?」

自分の贈ったチョコを、大好きな人が美味しそうに食べてくれるのをみたい
そんな、つまんないエゴ

「チョコ贈った女の子達の気持ち、わかる...だって、私も同じ気持ちだもん」

同じ気持ち?
まったく同じじゃない
私のチョコは、紙袋に入ってる中の一つじゃない
海堂君が私のチョコを食べてくれるのを見る事ができるのよ、っていう、
そんな醜い優越感
それなのに。。。
私、すごく狡い。。。わかってるくせに。。。

「一生懸命考えて、選んで...中には手作りしてるコもいるでしょ?
 本当に海堂君によろこんでもらいたいんだよ?」

私、やさしいフリしてる
気付かないフリしてる

「そしてね、おいしい、って言ってもらいたいの...」

でも本当は
自分の事ばっかり考えてるのよ

「一緒に...おいしいって...」

私の醜い感情に気付かない海堂君に甘えてる
私。。。狡いなんてもんじゃない
なんでこんな事思っちゃうのよ。。。

「だからね、私、一緒に食べて欲しいの、海堂君に...
 おいしいって言ってくれるの、ききたいの...ごめ..」
「ごめっ...ぉわっ!?」

情けなくて、泣き出す寸前だった
けど
海堂君の腕が、チョコの入った紙袋にひっかかり
中身が、床に弾け散った
一瞬だけ、私の思考。。。醜い感情がわくのが止まった
何てタイミングなのよ?
本当は海堂君、わざと私のコト、笑わせようとしてる?
それとも、私の汚い感情に気付いて、わざと?

そんなはずないって、わかってるけど
すごく救われた気持ちだった

「タイヘ〜ンっ!
 乙女の真心を邪険にする輩は、ウマに踏んづけられて、伸されちゃうんだからっ」
「お前、それちがうだろ
 それに、その馬に蹴られて、って慣用句は、こういう場面じゃ使わないぞ、フツーは」
「いいのいいの、なんとなく、フィーリングってのを大切にしないとねっ」
「いや、ぜんぜんよくねぇだろ」

こんな軽口を叩き合って、自分の汚いキモチから、気が逸れたのに。。。
それでも、床に落ちたチョコを拾いながら、また、嫌な気持ちがわいてくる

本当は、他の人からのチョコなんて受け取らないで!って
目の前にあるチョコを捨ててしまいたいくらい
それくらい嫉妬してる

私、どうしようもなく嫌な子だ

そんな私。。。自嘲するしかないじゃない。。。


「かのん」

「え?」
私は気付かれたと思った
けど、海堂君は私の髪の毛の間に指を滑り込ませ、キスを求めた
私は途端に気が抜けた
よかった。。。気付いてない
海堂君が気付いてないのをいい事に、
私、知らないフリを続ける
気付かないのをいい事に
私、海堂君に甘えてる

まったく。。。
酷いにも狡いにも、程がある

ガタン!と、椅子が大きな音を立てた
ビックリして海堂君からはなれると、
海堂君もぶつけてしまったらしい腕を気にしながらあわててる

もう、バカみたい

。。。みたいじゃない。。。バカだ。。。私

「もうっ、早く拾ってチョコ食べよっ!
 私、すっごく楽しみにしてるんだからっ」
「わかったよ、拗ねなくてもいいだろっ?」
「私のどこが拗ねてるっ!?」

拗ねてるんじゃない

ごまかして、だまして。。。

それでも、海堂君の事を好きでいたい
海堂君と一緒にいたい

そんな醜い気持ちを、必死で隠してるだけ

好きなだけでよかった

それなのに

どんどん欲がでてくる

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