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よみもの~中等部編
5 ~kaoru

「よぅ...」
「海堂君、部活お疲れさま」
視聴覚教室、一番後ろの窓際
かのんの指定席
薄暗い教室の中、逆光でかのんの表情ははっきりとはみえないが、
でも、さっきの声で、笑ってるのがわかる

暖房の入ってない教室は寒くて、待ってるのも辛かったんじゃないかな?と、考えがよぎる
「寒くねぇか?」
「ちょっとだけね」
ふにゃふにゃと笑いながら、使い捨てカイロを振ってみせる

俺は荷物を机の上におろし、かのんの横に座った
「たくさんもらったねぇ...去年の倍以上あるんじゃない?」
ふにゃふにゃと笑う
「お前もそれに貢献してくれるんだろ?」
「あれ?海堂君期待してるの?」
「別に...こんなにもらったからな
 もう十分だろ?」
俺はわざと、チョコレートの紙袋をかのんにみせつけてやった
だが、そんなことでイジケたりするお前じゃないだろ、どうせ?
「あぁ、よかった、期待されてたらどうしようと思ったてたから」
あれ。。。まてよ?期待されてたら?って?
え?俺、期待しちゃダメなのか?
ふにゃっと笑い、バッグから、2つ綺麗に包装された箱を取り出した

「こっちは、はずえクンね
 生チョコ...ちゃんと保冷剤入れて持ってきてたんだから
 ほら、ね、まだ冷たいでしょ?
 そして、こっちは海堂君のお父さんへ
 リカーボンボン...私、このコアントローとキルシュのボンボン、すっごく好きなの」
「ちょっと待てよ、それ、酒が入ってんだろ?」
「まあまあ、気にしない、気にしない」
いや、気にしろよ。。。
「で?」
「うん、海堂君、デリバリーよろしくおねがいします♪」

。。。オイ。。。

「で!?」
「ん?」

マジかよ。。。

「俺は?」
「はい?」

あくまでトボケる気か?
それとも。。。マジで。。。ナシ?

「俺のはっ!?」

「あれ、私昨日のメールでちゃんと伝えたと思ったんだけど...」
確かに、メールでは『葉末と父さんに』って書いてあった
けど。。。
俺だけないのか。。。
。。。ってか、何で俺、こんなにがっかりしてるんだよ
チョコレートの一つや二つで、こんなに絶望感を味わうとは思ってもいなかった

「わかったよ、ちゃんと渡しとくから...」
「ありがとうねっ
 あ、そーだ、私、自分用にチョコ買ったんだけど、一緒に食べる?
 部活で疲れたでしょ?
 ホラ、疲れたときは甘いものがいいっていうじゃない?」
「はぁ?」
「あ、そっか、海堂君、沢山貰ったから、十分だよね
 うん、そうだね、貰ったの食べればいいよ
 みんな勇気振り絞って海堂君に渡したチョコだもん、ありがたく頂きなさい
 きっと彼女達もそのほうが喜ぶでしょ?」
また、わけのわからねぇことを。。。

「お前...それって、俺に意地悪してるつもりか?」
「まさかっ
 私はねぇ、海堂君にチョコを渡した女の子達の気持ちがよくわかるから
 だから...ちゃんと食べてあげて欲しいな...」
そう、かのんは俯く

「いいのかよ?」
「なぁに?」
いつものすこしだけ首を傾げる仕草
「お前、なんでヤキモチ焼かねぇんだよ?」
「海堂君だって、ヤキモチ焼かないじゃない?
 私が不二先輩、不二先輩って言っても」
そう言われればそうなんだけど。。。
ふにゃふにゃと笑うかのん
それでも、いつもと違う気がするのは。。。気のせいなんだろうか。。。

「俺、お前のチョコレートも食べたい」
何だよ、俺
何催促なんかしてんだよ、バカじゃねぇのか?
「そう?じゃ、一緒に食べようか?」
「そうじゃない」
俺は、お前にとって、一番特別でいたいんだって、わかんねぇのかよ?
かのんはそんな俺の顔をじっとみつめる
なんだか情けなくなってきて、顔を背けた

「海堂君」

名前を呼ばれても、なんか気まずくて顔を向ける事ができない

「海堂君?」

さすがに無視する訳にもいかず、少しだけ顔を上げた
そこにはふにゃふにゃと笑う顔
「海堂君、一緒に食べよ?」
「...いらない」
俺、こんなことで臍を曲げて、バカみてぇだ
「私は、一緒に食べて欲しいんだけどな...
 そう思って、せっかく...
 自分用に...海堂君と一緒に食べようと思って買ったんだよ?」
そう目の端に映るかのんの顔が、こころなし泣きそうに見え、焦った
顔をまっすぐ向けると。。。やっぱり、気のせいか?
かのんは笑ってる
「チョコ贈った女の子達の気持ち、わかる...
 だって、私も同じ気持ちだもん
 一生懸命考えて、選んで...中には手作りしてるコもいるでしょ?
 本当に海堂君によろこんでもらいたいんだよ?
 そしてね、おいしい、って言ってもらいたいの...
 一緒に...おいしいって...」
ここまで言って、かのんはまた少しだけ俯いた
口元は笑っているようにみえるが、感じられる雰囲気は、どちらかといえば、泣いてる方に近い
「だからね、私、一緒に食べて欲しいの、海堂君に...
 おいしいって言ってくれるの、ききたいの...ごめ..」
「ごめっ...ぉわっ!?」

この最高に盛り上がる場面。。。だったのに。。。俺は、どうしようもない程マヌケだ
かのんの気持ちが嬉しくて、抱きしめようと上げた腕が、
チョコレートの入った紙袋を。。。派手に吹っ飛ばした。。。
バサバサと辺りに散らばるチョコレート
それを俺とかのんは、あーーーーーーーーーー。。。と、みつめ、
顔を見合わせて、盛大に吹き出した

「タイヘ〜ンっ!
 乙女の真心を邪険にする輩は、ウマに踏んづけられて、伸されちゃうんだからっ」
「お前、それちがうだろ
 それに、その馬に蹴られて、って慣用句は、こういう場面じゃ使わないぞ、フツーは」
「いいのいいの、なんとなく、フィーリングってのを大切にしないとねっ」
「いや、ぜんぜんよくねぇだろ」

俺達は床に散らばったチョコレートを二人でせっせと拾い集める
まわりからみたら、何て間抜けな光景だろう
でも、俺とお前だと、なぜかしっくりくる
「かのん」
「え?」
笑ったまま顔を上げるかのんの頭をひきよせ、唇を重ねた
ぺたん、と床に座り込んだかのんを抱き寄せようと上げた腕が、
今度は派手に椅子に当たり、ごっとん!と、もの凄い音を出す
あわてて身体を離す俺達、そして、また大笑い

「もうっ、早く拾ってチョコ食べよっ!
 私、すっごく楽しみにしてるんだからっ」
「わかったよ、拗ねなくてもいいだろ?」
「私のどこが拗ねてるっ!?」
ばっさばさと、チョコレートを紙袋に放り込む俺達
さっきまでの甘い雰囲気が吹き飛んだ

でもいい、俺はそんなお前が一番だと思ってるからな?

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