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よみもの~中等部編
13 ~kaoru

「それじゃ、アタシは先に車で学校へ行ってるから」
「先生」
「何だい、海堂?」
「すみません、菊池も一緒に連れて行ってやってもらえませんか?」
「え、いいよ、海堂君...私...あの、大丈夫です、から...皆さんと一緒で...」
「遠慮するこたぁないよ、着物で大変なんだろ?」
「でも...」
困った顔で俺を見る
「母さんに言われたろ?お前に無理させんな、って」
「うん...すみません、先生、お世話になります」
ぺこりと頭を下げる
「さ、行くよ」
かのんは振り向き際で、ふわりと笑顔をよこした


それから。。。
俺は散々だった
学校に着くまで、この先輩達、特に!菊丸先輩に『いじられ』まくり
「それにしても、薫ちゃぁん、どーしちゃったの?
 なーーーーーぁんか、急に男前発言連発、だよね?」
「別に...」
「さては、何かあったにゃ?」
「何もないっスよ」
「それにしたって、なぁ」
大石先輩まで。。。なんスか、一体。。。
「大石も気付いた?」
「気付いたというか...
 海堂がここまでハッキリした態度を示したのは初めてだったから、正直、驚いたな」
「やだなぁ、みんな...海堂は最初っから男前だよ、ね?」
だから、不二先輩。。。ねっ?ってなんスか、ねっ?って。。。
「それにしても、奏音嬢は、なかなか可憐な少女だな、海堂?
 最近の女子にしては珍しい」
まあ、可憐というのはおいといて、『珍しい』ってのは、激しく同意するっス
珍しい、のイミは多分、俺と真田さんでは、違うと思うけど

それにしても『かのん=可憐』?
かのん かれん かのんかれんかのんかれんかの。。。
『可憐』がゲシュタルト崩壊してしまいそうなんスけど
「真田ぁ、それだけじゃないぞぉ?
 『この』海堂のカノジョだぞ?それだけですごいとおもわないっ?」
菊丸先輩、もしかして俺の事、おもいっきりバカにしてませんか?
「そうか?俺は、彼女はなかなかに男を見る目があると思うぞ?」
「え〜?どーいうイミさっ!?」
「海堂はこう見えて、さりげない気遣いの上手い男だ
 それに、努力家でもある...なかなかにいい男だと思うが、違うか?」
え。。。面と向かってそんな事を言われても。。。
「そうだ、海堂は真面目で責任感も人一倍強い
 自分にも、他人にも厳しく、行動には筋が通っている」
「...部長...」
俺は、テレるよりも、なにかもっと、大きなものを背負わされたように、
身体が、ズン、と、重くなった様な気がした
「そうだな...最近の海堂は、厳しいだけじゃなくて、優しい所がでてきたかな?」
「うん、そうかもしれないね?
 前に比べると、ずっと話しやすくなった、ってみんな言ってるよね」
「ひゃっ、やっぱ、カノンちゃん効果じゃなぁいの?
 あのコいると、全然雰囲気ちがうもんにゃぁ〜、薫ちゃんはっ」
なんだかくすぐったい。。。けど、やっぱり『いじられてる』と感じるのは。。。
菊丸先輩のこの、ネコ顔。。。のせいだろう。。。きっと

「んで〜...今日はぁ〜、二人っきりでなにする予定だったの?」
「え、別に...」
二人っきりって。。。厳密には違う
それにしても
まさか大晦日から、家に泊まりがけで来てるなんて
絶対に、絶対に!言えない


時間にして30分
だが
俺にとって、今年最初の一番長い30分だった
今年、まだ二日目。。。だけど

先に着いていた、かのん達は、先生と一緒に職員室でお茶を飲んでいたらしい
コイツの胃って。。。底ナシか?
「さあ、集まったね?早速、打ち初めといこうか?」
竜崎先生の合図で、それぞれにボールを打ち合う
一応、ユニフォームを持って来ていたが、誰も着替えないので
俺もダウンジャケットだけ脱いで、不二先輩と打ち合った

フェンスの向こうにいるかのんと、竜崎
時折、顔を見合わせながら、笑っている
動いている俺達はだんだんと身体があたたまってくるが、
二人はその逆で、どんどん、身体が冷えていっているはず
現に、かのんも竜崎も、胸や口の前で、手指をぎゅっと握っている
「すみません、不二先輩...」
打ち合う手をとめて、俺は自分のジャケットを取り上げ、コートを出た
「オイ、寒いんだろ?上からでも羽織っとけよ」
上着をポイッと投げ渡した
え。。。。。
コートに戻る俺に、全員の目が向けられている
あきらかに驚いてる目×2に、いつも通り冷静な目
どっちかっていうと、にんまり、という目に、謎の微笑みをたたえた目。。。
あ。。。。。
マズい、どうやって言い訳しようか、と考える間もあけず
「今日は特別だよ?お前達も入っといで」
竜崎先生が、外の二人に声を掛けてくれたおかげで、
俺に向けられていた目線が、一気にかのん達に注がれた
「お、おばあちゃんっ」
竜崎桜乃があわてて、とんでもない!と言う風に手を振る
「今日だけだ、中に入ってそこのベンチに座っていればいい」
今度は手塚部長だ
それが合図になって、菊丸先輩がコートから飛び出し、
二人の背中を押しながら、中へ招き入れた
「ホラ、ここ、座って、ね?
 あ、そーーーだっ、コレも羽織っときなよ?」
と、自分の上着を竜崎に被せ、
「ついでに、これと〜、これも〜」
ベンチに投げてあった全員の上着を、二人にかぶせていった
最後に、ほい!と、自分の予備のラケットを渡す
「ボールが飛んで来たら、自分でナントカしてねっ?」
「あのぉ...菊丸センパイ...
 ナントカっていわれても...コレじゃ動けないんですけど...」
コイツにしちゃ、正論、だ
二人とも、雪だるま状で、もこもこしてる
「うん、二人ともかわいっ♪」
にゃっ!と笑って、菊丸先輩は、自分のコートへ戻る
その様子に、かのんも竜崎も、目を丸くしたが、直ぐに顔を見合わせて笑った
そして、その場にいた全員の雰囲気も、ずっと柔らかくなったような気がした

打ち初めということで、全員と何球かずつ、打ち合っていく
竜崎先生は、かのんと桜乃にもどうか?というが、
もちろん、二人とも遠慮してぷるぷると首を横に振るだけだ
「桜乃、お前、一応テニス部だろ?一球ぐらい打っときな」
竜崎先生はそう言って、菊丸先輩の予備のラケットをとり、
桜乃の手を引っ張って俺のコートに入ってきた
「海堂、お前も教えてやんなよ?」
すれ違い様にそう言う
。。。が、かのんがラケットを握るとは思えない
俺はコートからはなれ、かのんの座るベンチの横に立った
「桜乃ちゃんって、テニス部なの?」
「らしいな...」
ふぅん、と、竜崎先生&桜乃 対 手塚部長 の打ち合いをみる
「お前も打ってみるか?」
「ううん、私は、いい」
ふにゃっと笑う
「ラケットって、思ったよりも軽いんだね?
 さっき、菊丸センパイのラケット持ってみて、びっくりしちゃった」
「ほら」
俺は、自分のラケットをかのんに渡した
「わぁ...これ、打つ所の形が菊丸センパイのと全然ちがう」
ふにゃふにゃと笑いながら、ラケットを眺める
「それぞれ好みがあるからな」
へぇ。。。と、感心したようにもとれるし、溜め息にもきこえる
「海堂君、このラケットで、頑張ってきたんだねぇ...」
ラケットのフレームを指でなぞり、グリップを両手で握ってゆらゆらと揺らす
「コラ、またつまんねェこと、考えてんじゃないだろうな?」
「えっ?なんで?」
「そんな顔してる」
今度はフっ、と笑って俺の事を見上げる
「つまんないことじゃないよ?
 なんかすごいなぁ、って...
 あ、ホラ、よくあるじゃない?作曲家の手書きの楽譜とか見たときとか、
 そういう感動ない?そんなカンジ」
「ふぅん、そんなもんか?よくわかんねぇけど」
「うん、そんなもん、だ、よくわかんねぇけどっ」
俺の口まねをして、ますます、ふにゃっと笑うその顔に、こっちまでつられて顔が緩んでしまう

「そろそろ、帰るか?」
「まだ終わってないよ?」
「かまわねぇ、用事があるっていえばいい」
「用事...ねぇ...」
そう笑いながら、ラケットを俺に返す
俺は受け取りながら、コイツ以外の誰にも顔が見られないように、身体の向きをかえる
「今日は俺と『デート』じゃなかったか?」
「そうだったね?あやうく忘れる所でした」
にっ、と、口の端をあげて、上目遣いに俺の目を覗き込んだ

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