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よみもの~中等部編
10 ~kaoru

全員の身支度が整ったのは、10時を過ぎていた
葉末なんかは、9時過ぎに俺が起こしにいくまで、寝ていた
それまで、それぞれが、お重に入りきらないおせち料理や、
ケーキなんかをつまみながら、時間を過ごし、結構ハラが張っている


一家の長、父さんの挨拶だ
「それでは、皆さん
 新年、あけましておめでとうございます」
全員で、おめでとうございます、と挨拶をし合う
「今年も菊池家、海堂家の益々の繁栄と...
 これじゃ、結婚式のスピーチだな」
ここにいる誰もが笑った
「これからも両家、仲良くしていきましょう!
 乾杯!!」

今年の正月は、
いつも母さんの作る、純和風のおせち料理に加えて
おばさんの作る、いわゆるオシャレな料理が並んだ
お屠蘇は、金箔の入った日本酒でふるまわれたが
雑煮を食べ終わると、おじさんが選んだワインがテーブルに出された
例に漏れず、かのんは、お正月だから〜、と、ワインをおじさんにねだる
「海堂君は?いらないの?」
「俺はいいよ」
「ふぅん...このロゼ、甘口で飲みやすいのに...」
何だよお前はまったく。。。
「かのんちゃん、お酒、すきですよねぇ?」
「はずえクン、これ、ナイショにしておいてくださいね?」
ふふっと笑って、葉末とゆびきりげんまん、とかしてるし
「それにしても、おばさまのお料理、すごいですよねぇ...
 テレビに出るような、高級料理店のおせちみたい」
「あら、奏音ちゃん、それ褒めすぎよぉ」
いや、母さん、ホントはまんざらでもないんだろ?
そんな顔だ
「奏音ちゃん、穂摘ママに弟子入りして、お料理覚えたら?」
おばさんの料理だって、美味しいとおもうっスよ?
「そしたらお母さん、私にばっかりお料理させるつもりでしょう?」
「さすが、私の娘、こういう事には聡いのね、いつもは、ボケてるくせに」
おばさん、俺もソレには100%、いや、120%同意するっス
「そんな事言ったら、本当に奏音ちゃん、借りちゃって、返さないかもよ?」
なんのハナシだ?
「いえいえ、3時間もしないうちに
 『智子さん、お願いだから、奏音ちゃん連れて帰って』って
 助けてコールする羽目になるから」
ひでぇ。。。
けど、ありえそうなハナシだな、それ。。。と、笑いが出る
「あら?そうなの?」
「おばさま、どうしましょう?
 私、なんだか自分の母親に酷い事言われてるようなんですけど...
 それでも、借りちゃいます?」
いやあねぇ〜。。。と、また女三人が、いわゆる『ガールズトーク』ってヤツを始めたぞ

一通り料理を食べ終わると
父さん達は、葉末の習字道具をひっぱりだし『書き初め』を始める
ほどよく酔っぱらってるからか、始終ご機嫌。。。
まあ、楽しい酒、ってことで、いいことなんだろう
母さんが、食器の片付けをしながら、かのんに声をかけた
「奏音ちゃん、ピアノ弾いて?」
「え...でも...」
どうした?まさか酔っぱらって弾けないってことはないよな?
「奏音ちゃん、着物、着替えちゃいなさい
 今日はもう、初詣、いかないでしょ?」
「あ...」
と、俺の方を見る。。。
そうか、初詣、一緒に行くつもりだったんだよな。。。
「明日行くか?」
そう言うと、ふにゃっと笑う
「じゃあ着替えて来ます」

洋服に着替え、数冊の楽譜を抱えたかのんがリビングに顔を出すと、まず葉末が飛びついた
「かのんちゃん、アレ、弾いてください?」
にっこりと笑って、葉末にこたえる
葉末のテーマ、ショパンの『蝶々』
それが終わると、次から次に、曲を弾き出す
もちろん、俺の...曲も
それにしても。。。コイツの頭の中はどうなっているんだろう
楽譜を見て弾く曲もあれば、ソラで弾く曲もある
どうやったらあんなに沢山の曲を覚えていられるんだ?

ふう、と、息をついて、かのんはおばさんを呼ぶ
楽譜を取り出し、俺の方をちらり、と見た
なんだろう?と、思ったが、曲の出だしですぐにわかった
あの『カッコ良くて、力が出る曲』
そうか、それ、弾けるようになったんだ
まだ余裕はなさそうだけど、それでも。。。あの電話から聴こえて来た通り、
力強く奏でる
大方覚えてしまっているんだろう、楽譜をほとんど見ない、が
それでも、おばさんはタイミング良く楽譜をめくってフォローしている。。。流石だ
アイツもたまに楽譜をちら、と見る
自分の弾いている所がピンポイントでわかるんだろうか?
と言う事は、頭の中に楽譜が、まんまコピーされていて、ソレを読んでいるのか?
やっぱり、コイツの頭の中をのぞいてみたい
ピアノを弾くコイツと、普段の天然ボケもしくは、おもしろ系のコイツが
別の容器にそれぞれしまってあるんじゃないか、と、本気でおもえてくる

最後は、きらびやかな和音で締めくくった
「よしっ!弾き初め、おわりっ!!」
とたんに、スイッチが切り替わった
「うわぁ〜!かのんちゃん、それスゴいですね?
 何て曲ですか?今度のコンクールの曲?」
「この曲もショパンなんですよ? 『ソナタ3番、終楽章』」
「また派手な曲なのね? でも、奏音ちゃんにぴったりじゃない?」
母さんの言葉に、ふにゃっと笑う
それ以上に俺は、おばさんが笑う方が気になった
「まだまだよ、ね?奏音ちゃん?」
「もうっ、黙ってたら、誰にもわからないのにぃ」
と、きまり悪そうに笑うかのん
「ハイ、おりこうさん、よくわかってますね、
 音は抜けてるし、ミスも多い
 なんとな〜くカッコウがついてるだけ...ね?」
「あーーーーーよかった、お母さんの『生徒』じゃなくてっ
 岩崎先生じゃなかったら、私、絶対ピアノやめてたっ」
「あらあら、奏音ちゃん、そんな事言わないのよ?
 親ってね、どうしても欲目がでちゃうものなんだから、仕方ないわ?」
「おばさま、やさしいっ...やっぱり借りられちゃおうかな?」
だからその、借りるってなんだ?
「でも僕は、かのんちゃんのピアノ大好きですよ?
 もっと練習したら、もっともっとすごくなるんでしょう?ね?」
「はずえクぅ〜ン、そんなコト、誰も言ってくれないんですよ、はずえクンだけですっ
 私もはずえクンの事、大好きです〜〜」
そういうかのんの言葉に、真っ赤になる葉末
なにいまさら恥ずかしがってんだ?

始終そんな調子で、俺達は夕食までの時間を楽しく過ごした

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