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よみもの~中等部編
帰り道
みんなが出て行くと
ガクっと、力が抜けたようにピアノにうつぶせる
「お...おいっ?」
俺は焦った
「...ゴメン、やっぱキツい...」
「お前、具合悪いんなら...」
無理すんな、と言おうとすると
アイツは、こてん、と頭を横に向け、俺に潤んだ目を向けた
「ん...いつもの...」
いつものって。。。いつもの。。。だよ。。。な?
と、考えを巡らせて、自分が赤くなるのがわかった

肩で浅い息をついている、また、この前のように貧血を起こしかけてるのかもしれない
「海堂君、ごめん、バック、とってくれる?」
バッグを渡すと、手を振るわせながら、中からチョコレートの箱を取り出した
「甘いモノ食べるとちょっと楽になるから」
と、チョコレートを一粒口の中に運んだ
「海堂君も食べる?」
「いや、俺は...いい」
3つ目のチョコレートを口に放り込むと
ゆらりと、立ち上がる、が、もの凄く心もとない動きだった

「そろそろ教室でないと、本当に警備の人から怒られちゃうよ?」
。。。でも。。。
「大丈夫、今日はこの前みたいにひどく無いから...ね?」
と、笑うが、まだ顔色が悪かった

校門を出て駅へと向かうが、傘がゆらゆらと揺れ、その足取りは重そうだ
「どこかで、休んでいくか?」
「ううん、駅のベンチでしばらく座ってるから...」
「つきあうよ」
「海堂君、お家に帰るのが遅くなるよ?」
こんなときまで、他人の心配すんなよ。。。
「一人で残してる方が心配なんだよ」
「ごめん、ね...」

駅に着くと、すぐに目についたベンチに座った
タクシー乗り場の前だが、まだラッシュ時間じゃないのか、人もそんなに居ない
建物の中よりも、空気が淀んでない分いいかな?と思った
駅に着く頃には、チョコレート一箱を食べ終え、
音楽室に居たときよりも顔色も幾分かマシになっているような気がした
「病院...行った方がいいんじゃないか?
 普通がどうなのかはしらねぇけど、お前の、いくらなんでもひど過ぎだろ?」
「病院は行ったよ、この前
 薬で...コントロールできるらしいけど、毎日飲むのはちょっと、ね
 それに、いつもこんなにならないし...たぶん、精神的な事もあるだろうって...」

ぽつり。。。と、口をひらく
「コンクール...キツい、なぁ...」
なんだかコイツらしく無いな、と思う
「ランキング戦、もうすぐだね?」
すごく困った顔で、俺の事をみる
「応援、行きたいなぁ...」
ため息まじりにそんな事を言った
が、所詮それが無理な事なのは、お互いよく知っている
ランキング戦と、コンクールの日程が重なっているからだ
「練習、うまくいってないのか?」
ますます困った顔になって、ついには、俯いてしまった
「先生の要求が高いの...頭ではね、わかってる...
 イメージも、ね、あるの...でも、テクニックが追いついて、来ない...
 もうホントなら...曲、仕上がってなきゃいけないのに...」
声が震えていた
横目で様子を伺うと、涙をこらえているのがわかる
悲しい、と言うよりも、悔しそうにみえた
「俺も...そういうの、ある...」
ぴくり、と肩がはねる
「でも、誰だってそんなモンだろ?
 まわりの要求が高いってことは、それだけお前がやれるって信じてるから、だろ?
 諦めんなよ、ソイツら、みかえしてやりゃいいだろうが」
そう言うと、アイツは、泣き笑いの顔をちょっとだけ俺に向けて、また俯く
「厳しいな、海堂君は...
 こういう時って、普通は、お前はよく頑張ってるよ、大丈夫だよ、って慰めるのに...
 ホント、甘えさせてくれないんだね?」
また俺の想像の遥かナナメ上のコトを言い返す
でもそういう所も、好きだな、と思う
「甘えて、どうにかなるなら、甘えさせてやるよ」
それなら。。。それもいいと、俺は思った
でも、俺には答えがわかってるような気がする
「それじゃ、ぜんぜん『海堂薫』じゃないよ」
目に涙を浮かべたまま、くすくすと笑い出した
「俺は絶対レギュラーになる、言っただろ?
 だから、お前も、逃げんな」
「...うん...」
「もう、大丈夫だな...そろそろ、行くか?」
「...うん」

改札を抜けると、それぞれ、違うホームに向かったが
俺はどうしても伝えたい事があって、アイツの向かった方へ踵を返した
ホームで電車を待つアイツに声をかけ、駆けよる
俯いてる顔が、少しだけ上がり
口元が、海堂君、と言ったように見えた
「関東大会、試合、観に来いよ」
目をぱちぱちしている
「お前は絶対、本選に残れ、そうしたら、ピアノ聴きに行く」
一瞬だけ、大きく目を見開いた
その瞳が揺れて、今にも涙がこぼれそうになり、焦る
「泣くなよ」
スンっと、洟をすすって、また泣き笑いの顔を向けた
「でも、本選は平日、部活は?」
俺は、へ?となった、でも。。。約束だ
「それでも、聴きにいく!」
俺は右手の拳を突き出す、アイツもそれに倣った

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あきゅろす。
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