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よみもの~中等部編
奏音
人目がなくなると、急に、今まで張っていた気が一気に崩れるようだった
「お...おいっ?」
海堂君があわててるのがわかる。。。けど
「...ゴメン、やっぱキツい...」
「お前、具合悪いんなら...」
ごめん。。。
「ん...いつもの...」
だから、ちょっとだけ、休ませて。。。

なんだか息があがって、手に震えが来ているのがわかった
「海堂君、ごめん、バック、とってくれる?」
バッグのなかのチョコレートを探すのも、震える手がもどかしい
「甘いモノ食べるとちょっと楽になるから」
チョコレートを一つ口に放り込むと、心配そうな顔を向ける海堂君が視界に入る
「海堂君も食べる?」
「いや、俺は...いい」
何個目かのチョコを口の中にいれると、頭は重たいけど、
今以上の震えが来る事はなさそうな気がしてきた。。。

「そろそろ教室でないと、本当に警備の人から怒られちゃうよ?」
海堂君の顔は。。。納得しないよね、これじゃ。。。
「大丈夫、今日はこの前みたいにひどく無いから...ね?」
笑って、みせたけど、うまくいったかどうかはわからない

駅までの道。。。
気を抜けばそのまま座り込んでしまいそうになるのを堪える
「どこかで、休んでいくか?」
また、海堂君につきあわせてしまった。。。もう、ダメだなぁ、私
「ううん、駅のベンチでしばらく座ってるから...」
「つきあうよ」
「海堂君、お家に帰るのが遅くなるよ?」
「一人で残してる方が心配なんだよ」
「ごめん、ね...」
ホント、迷惑かけたく無いんなら、もうちょっと頑張れよ私。。。自分を叱咤する
でも、海堂君だから、意地、張らずに自分をだせるよ。。。

駅のタクシー乗り場手前に、空いてるベンチをみつけて、座り込む
気分はさっきよりはマシだけど、でも体がだるいのは同じ
どうしようか、頓服薬、もう一錠飲んどこうか?
レッスン前に飲んだばかりだから、間隔が短すぎるかな。。。
「病院...行った方がいいんじゃないか?
 普通がどうなのかはしんねぇけど、お前の、いくらなんでもひど過ぎだろ?」
心配をかけてるんだな、と思うと、本当に申し訳ない気持ちになる
「病院は行ったよ、この前
 薬で...コントロールできるらしいけど、毎日飲むのはちょっと、ね
 それに、いつもこんなにならないし...たぶん、精神的な事もあるだろうって...」

「コンクール...キツい、なぁ...」
ほら、ね。。。
「ランキング戦、もうすぐだね?応援、行きたいなぁ...」
弱音、でてきちゃうよ。。。海堂君にだけは。。。
「練習、うまくいってないのか?」
すぐに察してくれる。。。
「先生の要求が高いの...頭ではね、わかってる...
 イメージも、ね、あるの...でも、テクニックが追いついて、来ない...
 もうホントなら...曲、仕上がってなきゃいけないのに...」
情けなさに、自分の声が震えだす
「俺も...そういうの、ある...」
ぽつり、と、言う
「でも、誰だってそんなモンだろ?
 まわりの要求が高いってことは、それだけお前がやれるって信じてるから、だろ?」
海堂君は、慰めてくれるでもなく、かといって、怒る訳でもない
「諦めんなよ、ソイツら、みかえしてやりゃいいだろうが」
ただ、淡々とした口調で言葉を続ける
「厳しいな、海堂君は...
 こういう時って、普通は、お前はよく頑張ってるよ、大丈夫だよ、って慰めるのに...
 ホント、甘えさせてくれないんだね?」
でも、知ってる。。。これが海堂君のやさしさ
だから。。。弱音を吐けるんだよ、きっと。。。
「甘えて、どうにかなるなら、甘えさせてやるよ」
って、らしく無い事を言うから、ビックリして顔をあげた
海堂君は、まっすぐこっちをみている
その瞳は、決して冗談を言っているようではなさそう。。。だけど。。。
「それじゃ、ぜんぜん『海堂薫』じゃないよ」
甘えても、何の解決にもならないよね、それは一番良くわかってる
「俺は絶対レギュラーになる、言っただろ?
 だから、お前も、逃げんな」
「...うん...」
「もう、大丈夫だな...そろそろ、行くか?」
「...うん」

ホームにおりて、すぐ、海堂君の声が聞こえたような気がして、振り向くと
こちらに、駆けてくるのがみえた
「関東大会、試合、観に来いよ」
いきなりそう言われて、一瞬何のコトかわからなかった
「お前は絶対、本選に残れ、そうしたら、ピアノ聴きに行く」
海堂君は、こうやっていつも勇気をくれる
「泣くなよ」
そういわれて、また泣きそうになってるのに気付いた
そんな自分が恥ずかしくて、ついつい素直になれなず、意地悪く言葉を返した
「でも、本選は平日、部活は?」
海堂君は、しまった!って顔になって、でも
「それでも、聴きにいく!」
海堂君は右手の拳を突きつけた
まるで『それが男ってモンだろ?』って言わんばかりに
だから私も『百も承知だ、それが海堂薫だろ?』
と、海堂君の拳に、ごん!と、拳を当てた

ぶっきらぼうで、言葉足らずで。。。
だけど
本当はすごくやさしい

これからも。。。
勇気をくれますか?

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あきゅろす。
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