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よみもの~中等部編
第二音楽室
結局、俺の意見なんぞこれっぽちもきくハズもなく
菊丸先輩の『廊下でピアノ鑑賞会案』が成立した
時折、越前が、小窓から中を覗くほかは、全員が音楽室の外で座り込んで、ボソボソと口を開いている
当然、俺も一緒に

「ピアノの陰になってて、良く見えないっすよ」
「おちび、ちょっと覗きすぎ」
「だってっ」
お前ら、邪魔しないんじゃなかったのか、と言いたいのをぐっとこらえる
「なんかヘンな音だなぁ...海堂、これ、ホントにカノンちゃんなのかよ?」
桃城が俺に意見を求めた
「ああ」
「それにしても、へんてこりんな曲だなぁ、な?」
。。。って、俺に言われても。。。
まあ、ただでさえヘンテコな曲なのに、
途切れ途切れにしか弾いてないから、余計に、だよな。。。
「道化師の朝の歌...って曲...」
「海堂、お前、すごいなぁ...」
河村先輩がヘンな所で感心する
「え...いや、前にそんな事言ってたから...」
ホントは、何度か聴いたから。。。なんだけど。。。
「う〜ん、中学生でこれだけ弾けるって、やっぱりすごいよね」
「はあ...俺にはよくわからないっスけど...でも、吉川先輩もすごいっスよね」
何故か、不二先輩となら、素直に話が出来るような気がする
「そうだなぁ...吉川君は、前のコンクールのときも別格って感じだったもんな」
俺も不二先輩も、うんうん、と、大石先輩の言葉に頷く
ふっと周りを見れば、全員が円陣を組んだカタチになって、ふんふん、とやっている
すっげぇ、間抜けな光景かもしんねぇし。。。

その時、ガタっ、と、音楽室のドアが開いた
「あら?どうしたの?」
岩崎先生は、この間抜けなカッコウの俺達をみて、何事か、と思ってるに違いない
「先生っ、いえ、あのミーティング中に、すばらしいピアノの音がきこえてきたものですからっ」
大石先輩が、苦し紛れのセリフを吐く
その上、声もうわずって、すっげぇ不自然だし
先生はクスリと笑って、中にいる誰か。。。この場合、アイツ、なんだろうけど。。。に、何か言う
だが、ぱたぱた、と言う足音が聞こえて、音楽室から顔を出したのは、吉川先輩だった
「やあ」
誰となしに、声をかける
「それじゃ、優君、あとの戸締まりよろしくね」
「はい、先生、ありがとうございました」
先生が去るのを見計らって、不二先輩が口を開いた
「吉川、レッスン終わったの?」
「ああ、俺はとっくに、な...奏音は終わったばかりで、ヘタってるぞ?」
くすくすっと笑う吉川先輩は、やっぱり不二先輩にそっくりだ
「コンクールの予選、来週末なんだってね、調子はどう?」
「まあ、ね、俺も奏音も、只今絶賛どん詰まり中、ってトコロ」
あははは、と、さわやかに笑う
いや、どん詰まってる人が、こんなにさわやかに笑うって、どうだよ?
「ねぇ、吉川ぁ、ピアノ聴かせてくれない?
 ホレ、うちのおちびちゃん、聴いた事ないしさ?」
菊丸先輩は、越前の頭をぽこぽこ叩きながら、吉川先輩に尋ねる
この場合、越前はカモフラージュだと言うのは、ミエミエなんだけど。。。
ついでにいうなら、『聴きたい』じゃなくて、『観たい』の間違い、だろ?
「菊丸先輩、痛いっス」
「そっか、ウワサの一年生君、ね」
「どうもっス」
「うん、俺は別に構わないけど...奏音は、どうかな?
 今日はかなりへばってるから...」
「レッスンがキツかった、とか?」
「それもあるけど、ちょっと調子が良く無いみたいでさ
 特に、今弾いてる曲は、体力も気力もいるから」
「そっか...」
「とりあえず、入れよ?」
「おっじゃまっしまーっす♪
 ホ〜ラ、おちびぃ、よかったねー、ピアノ聴かせてくれるって」
ぽこぽことまた頭を叩く
「いたいっスよっ」

音楽室に入ると、アイツがピアノに突っ伏しているのがみえた
というか、バンザイのカッコウになって、ピアノと楽譜を枕にして伸びていた
俺はいつもアイツはこんな感じなので、内心笑っただけ、だけど、
他の部員は、ピアノを弾いてるところしか知らないから、いささか驚いてるように見える
「奏音ちゃん?」
吉川先輩が、アイツに声をかける
「も、ダメ、優先輩、私...限界ぃ...」
さっきのカッコウのまま、だ
確かに、どん詰まってる。。。ようにみえる。。。
不二先輩が、すかさずアイツに近寄る
「ピアノ、聴きたいんだけどな?」
「ふへっ...!?ふっ、不二先輩!?」
楽譜がバサバサ〜っと、床に落ちる
なぜなら。。。いきなり直立、それもバンザイのまま。。。
まったく、どうだよ、そのリアクション
俺はついつい笑ってしまった
「海堂先輩のカノジョって、おもしろ系なんだ...やっぱ意外...」
越前が真面目な顔で俺を覗き込んでいる
つい緩んだ顔を見せてしまった事に、俺はちょっと慌てた
「おもしろ系って...」
その俺の言葉に続いて乾先輩が越前にぼそっと告げる
「今はおもしろ系に見えても、ピアノを弾くときは全然別人だよ?」
「そうなんっスか?なんか想像できないんスけど」
大石先輩と河村先輩も笑いを噛み殺しながら、越前をみる
まてよ?このセリフ、そしてリアクションから察するに、乾先輩達もそう思ってるってことだよな?
オイ、菊池よ、お前『おもしろ系』のレッテル貼られてんぞ?

吉川先輩と不二先輩が、ピアノから少し離れ、窓の桟によりかかる
ふぅん。。。そうか、そこからなら、指がよく見えるよな
みんなも、それぞれに、椅子を引っ張り出して席に着く
「じゃ、奏音ちゃん、何弾く?」
「あーーー...」
と、ちらりと俺をみた
「ラヴェル...」
俺は少し期待していたのに。。。
けど、あの曲は自分だけに弾いて欲しい、そんな、ヘンな独占欲みたいなものが俺にはあったから
ガッカリしたか、というと、そうでもない

アイツは、はぁ。。。と、ため息をついている
なんか、ホントに具合が悪そうに見えるけど。。。

それでも、深く息を吐き、もう俺には見慣れたあの儀式に入った
無表情のまま、アイツはすっと息をのんだ
その瞬間、表情に色が入り、指が動き出す
なんか。。。前に聴いたときよりも、アクションも派手になってるような気がする
表情だって、あからさまに笑いながら弾いてる所もあれば、怒ってる所もある
そう感じた瞬間には、急に憂いた様な表情に変わって、なんか忙しいというか。。。落ち着かない
ただ言えるのは。。。
アイツのピアノの音にあわせて、ぞくぞくと緊張感が背中をせり上がってくる
何度聴いても、俺はこの感覚にゾクっとする

タン♪

腕が音にあわせて、跳ね上がった
。。。と思ったら、一気に力が抜けたようになる
やっぱ、今日のコイツ、ヘンだ
それでも、みんなの拍手をもらうと、ふにゃっと笑って、座ったままお辞儀をする
「ひゃぁ〜すっげぇな?これって、さっき練習してたヤツなんだろ?いや、マジすげぇって!」
桃城、ウルサイ
「海堂先輩のカノジョって、結構やるじゃんっ」
越前は、ニッと笑って、小生意気な口を叩く
でも滅多に他人を褒めないのを知っている俺には、それでも十分の褒め言葉だとわかった

「吉川は何弾くの?」
不二先輩が、ピアノについた吉川先輩に尋ねた
「ドビュッシーの喜びの島...スランプ中なんで、その辺り、よろしく」
そういうと、少し考えてから、斜め後ろに座るアイツの方に向き直った
「奏音ちゃん、そこで聴く気?」
「はぁ〜い、たまには、優先輩もナナメ後ろからのプレッシャー感じて弾いてくださぁ〜い」
おいおい。。。さっきのお返し、ってコトか?
「ヤなコト言うね」
吉川先輩が強気の表情になり、にやりと口をあげた

スランプ中というが、どこがどうスランプなのか。。。
目にも留まらぬ早さで指がバラバラ動いてるのに
やっぱりどこか余裕をぶちかましてるし
アイツとは音の重さも違って聞こえる
ものすごく重厚だ、と思う
ぜんぜん余裕じゃないか?
まったく、桁違い、いや、格が違うよな。。。

割れんばかりの拍手に、吉川先輩は苦笑を浮かべた
その顔、もしかして、ぜんぜん納得してない、ってコトか?

「ブラーボー、ブラァ〜ボぉう、アンコール♪アンコールっ♪」
「菊丸先輩、騒ぎ過ぎっス」
「おーちーびーぃ、もっと聴きたく無いのぉ?」
「そりゃ、すごいと思うっスよ、でも...」
時計をみるともう5時になるトコロだ
吉川先輩は苦笑いのまま、アイツになにか話しかけていた
「じゃ、一曲だけ、連弾で...みんなのよく知ってる曲ね」
アイツは、また、ふはぁ。。。と、ため息をついている

それでも、ピアノにつくと表情が変わるのは、さすがだ

あ。。。これ、くるみ割り人形、だっけ?
他のヤツらも、ああ。。。って顔をしている
桃城ですら、だ

曲が終わった所で、吉川先輩とアイツがにこり、と笑顔を交わした
お互い信頼しあってるんだな、と思う
「なんか、これってダブルスって感じだよねぇ〜」
俺は菊丸先輩の言葉に妙に納得してしまった
「オイ、海堂、ちょっと複雑なんじゃね?」
「何がだよ?」
「だってよぉ、目の前で、カノジョが他のヤツと仲良くする何てよぉ...
 くぁあああぁ〜、俺だったら、耐えらんねぇな、耐えらんねぇよっ」
一人で身もだえてやがる
「お前、バカか」
冷たく言ってやった

そんな桃城を放っておいて、俺達はそれぞれに、帰り支度をはじめる
不二先輩と大石先輩は、吉川先輩となにか話し込んでいる
アイツは。。。と、頭を巡らせると
体が辛いのか、のろのろとした動きでピアノを片付けていた

「ほれほれ、おちびっ、ちゃんと先輩達にお礼をいってきなさいっ」
「なんでっ」
「おちびの為に弾いてくれたんだよぉ?」
越前は、アンタもだろ?な、あからさまな顔を向けると、はぁっ、とため息をついた
「わかったっスよ」
「英二も、だろ?みんなでお礼をいうのが筋ってもんじゃないの?」
お、さすが、河村先輩、常識人
「俺はいつもちゃーんと、感謝してるもんねーだっ、ほらっ、モモも笑ってないでっ」
憎まれ口を叩きながらも、越前の尻をぽん、と叩き、にこにことしながら吉川先輩の所に行く
「海堂?」
耳元で乾先輩の低音がひびく
「なっ、なんスか?」
ちょいちょい、と、ピアノの方を指差す
「彼女、なんだか具合が悪そうだけど?」
俺はアイツももう一度みる、椅子に座りこみ。。。疲れているだけ、という感じでもない
「付き添ってあげた方がいいんじゃないの?」
優しい声で俺を促す

「オイ...大丈夫か?」
「あ...うん...ちょっと、今日は疲れちゃった...」
そう見上げる顔は、笑っているが、手がかたかたと震えているのがわかった
その声に、不二先輩達と話をしていた吉川先輩が、こちらに振り返る
「奏音ちゃん、大丈夫?」
「優先輩...大丈夫ですよ...レッスン、ちょっとキツかったから
 先輩もみてたでしょ?」
吉川先輩も、いつもと違う様子のアイツに、不安を抱いているようだ
「急がないと、また警備の人に怒られちゃいますよ?早く帰れって」
わざと元気な声を出す
「ほいほい、あとはカレシ君にまかせて、俺達もはやくかえろっ?
 ホレ、おちび、ちゃんとお礼、お礼っ」
「吉川センパイ、ありがとうございましたっ
 カノンセンパイも、ありがとうございましたっ」
アイツは越前に、にこ、と笑顔を向ける
越前も、えへっ、と笑う。。。
めずらしい。。。越前の素直な態度に、俺はちょっと驚いた
「じゃ、奏音ちゃん、俺達先に出るけど...」
「ハイ、お疲れさまでした」
「ほら、吉川ぁ〜俺達って、邪魔モノぉ〜〜〜、じゃぁね、カノンちゃん」
「オイ、海堂、襲うんじゃねぇぞ?」
にしにしと笑うアホ面、ンなわけねぇだろ、バカ城
吉川先輩は心配そうにみるが、不二先輩になにかそっと耳打ちされて頷き、俺をみた
俺は吉川先輩だけにわかるように、少しだけ目線を下げると
吉川先輩も、少しだけ口元に笑みを浮かべた
乾先輩がそっと寄って来て、なにかあったらケイタイに電話しろと、言ってくれた
「すみません...」

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