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鋭い紅の抱擁と一寸先も見えぬ黒の支配



紅が私をじわじわと包み込んで離さない。

黒が私を盲目にと誘わせる。

唯一分かるは、貴方と貴方の体温。







『鋭い紅の抱擁と一寸先も見えぬ黒の支配』







「……隊…長………何……で…?」


貴方を目の前にして、その言葉しか出てこなかった。

突き上げられた凶器は、鋭く私を貫いて、抜かれた先には赤い色がじわじわと溢れ出してくる。

ああ、今の貴方の目の色と一緒だわ。





「…堪忍な。こうもしないとさんは、大人しく一緒に行ってくれへんと思ったんや」



そう淡々と話す貴方は、私の今の状況に顔色一つ変えずに何時もの笑顔で、まだ私の赤が滴る刀を鞘に収める。


その間にも赤い色は、押さえてた手の間からどんどん私から流れ出ていって、血の気が急速に引いていくのが分かった。

次第にそれは、ある考えを巡らせた。





「私…死ぬ…の?」


言葉に出したせいか、足に力を保つ事がもう出来ず、崩れ落ちるように倒れた。
でも、倒れる寸での所で、貴方に抱き抱えられていた。


「安心し。すぐに傷は向こうに着いたら治したるから…傷跡一つ残さへんよ?」

貴方は相変わらずの笑顔で、まるで子供をあやすような声で囁き、壊れないように抱かれた腕と頬に触る手の平に、私は酷い安堵を覚えた。





たった今、そんな貴方に腹を一突きにされたばかりだと言うのに…。



「…何処に…行くの?」

そこまでして私を連れて行きたい場所は、最近の貴方の行動を知りうる限り聞くまでもなく、少し予感はしていた。

彼はより一層の笑顔を浮かべると、内緒話をする様に耳元で告げた。



「大丈夫やから…きっと気に入る」


答えは答えになっていなかったけど、何処へ行くなんて本当はもう、どうでも良かった。

ただ、貴方が私を連れて行ってくれるなら…私はそれで良いわ。
貴方と離れるなんて、それは絶対に嫌だもの。







そして、とうとう血を失い過ぎたか、どんどん視界が奪われていった。
瞼が重く、視界が狭まって黒くなっていく。








ほら、もう私は貴方しか見えない…。

私の血でじわじわと身体中赤く濡れた、鋭い紅い目でこちらを微笑む貴方しか。





その事に気付いた貴方は、また耳元で囁いた。

「今はちょっと眠っててな?…大丈夫。ずっとそばにいたるから」


『…本当?』

そう言って私は微笑んだ。今までにそんな事言われた事なかったし、してもらった事もなかったから。



鋭い紅の抱擁の中、私はこれまでに無い幸せに包まれながら、まどろみの世界へと意識を飛ばした。

この、一寸先も見えぬ黒の支配の先には、果たして何が待ち受けているのだろうか……?



せめて、貴方が最後にしてくれた接吻の意味を信じて…



End...


2006.12.04



歪んだ愛がテーマでした。つか、初めてのギン夢がこんなんで申し訳ない!!
京都弁(?)あっているか不安…。


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あきゅろす。
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