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いつもの朝の教室にて



さぁ、


一日が始まる。



今日も私の全ての勇気を出し切って、貴方に一言言わせて下さい。







『いつもの朝の教室にて』







何時もの朝の時間帯。貴方は大体この時間帯に来る。
だから、貴方より少し早めに来て、貴方が来るまで心の準備をするのはもう、私の朝の日課。

だってほら、貴方の足音と話し声が近付く。
段々と高まる体温。
上昇する心音。

さぁ、自分よ。心音を少し静めて。

深呼吸を一回、二回。

そして貴方が教室に来た時、一番大切な笑顔でいざ、何時ものあの言葉…


『く、く黒崎君っ!お早う!!』

…最低、最悪。私、名無しさんは、好きな人の前で吃りましたよ。
…まぁ、何時も吃ってますが。きっと変だって思われてるんだろうなぁ。


「あ、おーす。名無し」

そんな吃り口調の私の挨拶を物ともせず、何時もの感じで挨拶してくれた黒崎君。


この時以上に、勇気を出して挨拶をして良かったと喜びを隠せない。

こちらに向けてくれた視線。私に掛けてくれた短いけれど、私にしてみれば短くない挨拶。
そして何よりも、貴方が私の名字だけれども、名前を覚えてくれている事がとても嬉しい。
(名前覚えるの苦手だもんね、黒崎君)





彼を初めて気になったのは、学校の帰り道。
学校の中でも異様を放つオレンジ色の髪は、悪く言う人が少なからずいるみたいだけど、私は綺麗だと思った。
陽に透けたら、どんなに綺麗だろうか。


そんな黒崎君とはどうやら、帰り道が途中まで一緒らしい。
何でかと言うと、帰り道に偶然見掛けたのだ。

日直で帰りが遅くなり、急ぎ足で家路に向かっている最中、夕陽で益々オレンジ色の髪が輝いて見える彼の姿に、思わず足を止めた。
やっぱり陽に透けると綺麗なんだな…なんて、改めて思った。


でも私は、慌てて隠れる様に彼の様子を伺った。
だって、同じクラスメートってだけで、他に接点が無いんだもの。


目を凝らして様子を伺うと、彼は何やら小さい子と話をしているみたいだった。
…意外だった。だって何時も彼は、眉間に皺を寄せていて気難しそうな顔をしていたから。

失礼だけど、小さい子と話すイメージがなかった。


だから、





彼があんなに優しく笑うなんて思わなかった。





私はその日、一瞬にして彼に心を奪われた。





それからたつきちゃんに、黒崎君の話を聞いて、どんどん好きになって、気付けば目で追う様になって。
そして頑張って、ようやく朝の挨拶が出来るまでになった。


でも、前にたつきちゃんから、

「それならもっと、一護と話したら?」

って言われたけど、私にはたつきちゃんや織姫ちゃんみたいには、黒崎君と到底話せない。

…辛いけど、とても羨ましいけど、私には朝の挨拶が精一杯の勇気。
でも、私だって欲が無いわけではない。好きな人になら尚更で。

あと少しの勇気があれば、私だって貴方の側にいたい。
貴方の視線が、声がもっともっと欲しい…。


何時も小さく祈る。
どうか神様、私に勇気を出せるチャンスを…。




「あ、名無しっ!」

『……へ?』

授業終わりに突然黒崎君の声が聞こえた。
ああ、私。余りにも黒崎君の事を考え過ぎて、幻聴まで聞こえる様になったのね…。

相当末期ね、私。黒崎君から私に話掛けてくる事なんて、有り得な…
「…名無し?」

二回目の幻聴まで聞こえた。でも、まさか…。

恐る恐る、声のする方へ振り替えれば…
『く、黒崎君っ!?』

彼がいた。
しかも、私の名前を読んで話掛けてくれている。
目も合った。


夢…だろうか。そう思わずにはいられない。

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あきゅろす。
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