クラヤミ
少女を見つめる小さな視線。
あいつはなんなんだ…。
木の上で昼寝をしていると変な気配を感じ、飛び起きた。
その気配のある校門のほうに行くと、閉じられた門の前に女が立っていた。
年齢はおそらくツナたちと同じくらいだろう。
黒い、緩い癖のついた長い髪と金色に光る瞳の女。
並盛に住んでいるならば見たことがないわけがない。
推測ではあるが、中学生ぐらいであるのは確かだろう。
それならなおさら、並中に在籍している生徒の情報は全部把握していいるはずだから。
と、その女は軽く勢いをつけ、軽々と門を飛び越えた。
「らくしょ〜♪」
その女は笑う。
なんなんだ、この女は。
そう思い愛銃に手を伸ばした。
けれどその女の背後には雲雀がいた。
『咬み殺されるな』
そう思ったが。
『雲雀はこいつを咬み殺せない』
何故かそう思い、オレは愛銃を握る手に力を入れた。
「『あたしに攻撃することはできない』」
そう、女が呟いたのが微かに聞こえたと思ったらオレの体は動かなくなっていた。
自分の体のハズなのに。
頭は正常に機能していた。
いくら頭で動けと命令しても、動かない。
力を入れようと思っても力が入らない。
クルリ、その女は雲雀のほうを振り返った。
「…」
じっと、ただ何かを考えるように雲雀を見つめていた。
読心術で心を読もうとした。
だが、読めなかった。
まるで、靄がかかっているかのように。
「ねぇ、これ、何とかしてくれる?動けないんだけど」
殺意の籠った目で雲雀は女を睨み付けた。
確かな殺気が含まれたその目を見ればきっとツナたちは怯えるだろう。
だが、女はそんなの気にならない程鈍感なのか、いや、ただそれを凌ぐほどの力があるのだろう。
「あぁ、『あたしに攻撃する意思がなければ動ける』よ?」
女はクスクスと笑いながら言葉を紡いだ。
あぁ、オレの体が動かないのもコイツのせいなのか。
そして、オレに攻撃する意思があるから動かない。
それは、雲雀も同じなのだろう。
「あぁ、無理に動かないほうがいいと思うけど?」
無理にでも動こうとすれば自分が傷つくことになる、とでも言いたげな言葉だった。
雲雀はただキッ、と女を睨み付ける。
さっきよりも強い殺意を込めて。
それでもなお、この女は動じなかった。
「『あたしに攻撃する意思がなければ動ける』って言ってるじゃん」
「君、何なの」
「さぁ?自分に牙を向けてくるような人に教えることなんてないわ」
雲雀の顔が歪んだ。
(銃をしまうか…)
ふと、そう思った瞬間、体は動いた。
そして、もう一度銃口を女に向けようと試みると再び動かなくなった。
あぁ、こういうことか。
女に対して殺意や傷を負わせるものを自分が持っていなければ体は動く、ということなのか。
「そろそろ飽きたし、『あたしが去ってから30分後に動けるようになる』から」
女はそう言って雲雀に背を向け校舎のほうに歩き出した。
雲雀は未だに動けないでいる。
ただただ、純粋な殺意の籠った視線を女に向けながら。
「(あいつはプライドが高ぇからな…)」
まぁ、オレも心中穏やかだと言ったら嘘になるのだが。
視線を再び女に戻すと、校舎に向かって歩いていた。
「(ちょっと調べてみるか)」
もし、ツナを狙ってるんだとしたら放っておくこともできねぇからな。
忘れないうちに、と思いオレは行動を始めた。
「『―――――――――――、―――――――』――――♪」
ほんの微かな呟きが聞こえた。
だが、はっきりと聞き取ることはできず、風に溶け込んでいってしまった。
少女を見つめる小さな視線。
(本部に連絡しとくか…)
(あと、家光だな…)
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