4.可愛い子にはマネージャーをさせろ
「千鶴マジ天使」
というわけで昨日はいなかった千鶴が無事に学校に来ました、ので。
あたしの親友、雪村千鶴を紹介します。
「どうしたの、凜ちゃん。いきなり…」
「千鶴、今日も可愛いね!」
「うん。聞いてないよね…」
「ほっとけって、千鶴。コイツもう上の空だから」
「黙って平助。あたしと千鶴の甘い時間を邪魔しないで。ね、千鶴!」
「うぅ…凜ちゃん、苦しい…っ」
ぎゅっと抱きしめると柔らかくて最高。
千鶴、いい匂いだなあ。
絶対千景なんかには渡さん!!
「なに朝から暑苦しいことしてるの」
「沖田、邪魔しないで、今いいとこなのに」
「お、おはようございます、沖田さん」
「おはよう、千鶴ちゃん。なんか苦しそうだね。代わろうか?」
「何言ってんだよ総司!」
「だってずるいよ。そんなにくっついて。そろそろ嫉妬しそうなんだけど」
「駄目だよ沖田、千鶴はあたしの」
「なんか違うんだけど……まあいっか」
千鶴を解放して、こんどは頭を撫でてみる。うーん、可愛い。
「そういえば沖田が早く来るなんて珍しいよね。あたしと千鶴のラブラブタイムを奪ったからにはちゃんとした理由があるんだよね?」
「まあまあ落ち着いてよ凜。僕は君に用があってわざわざ早く来たんだ」
「え、あたし?」
「うん。千鶴ちゃんが剣道部のマネージャーをしてくれてるのは知ってるよね?」
「うん。いつも隣で部活しながら愛でてたから」
あたしが所属している機械体操部。剣道場を剣道部と半分ずつ使って部活をしていた。ちなみに薄桜学園の剣道部は数年前に近藤学園長が作って、沖田、斎藤くん、山崎先輩、平助、マネージャーに千鶴がいる。
「それで、千鶴がマネージャーなのがどうかした?」
「今剣道部には女子が千鶴ちゃんしかいなくてね。色々大変なんだよ、ね?千鶴ちゃん」
「え、私はべつに…」
「それで、本題なんだけど」
「聞いてないですね…」
にっこり笑った沖田。この笑顔には見覚えがある。――ドSの笑みだ。
「凜、け「剣道部のマネージャーになってくれないか、東城」
「「――な…!!」」
「あっれー、一くんじゃん。風紀の仕事終わったのか?」
「総司が一人で東城を勧誘していると聞いて来た」
「ちょ、一くん…また、いいとこ取ったよね?」
「なんのことだ、総司」
「ね、ねえ――!」
いきなり、しかもイケメン斎藤くんに突拍子もないことを言われてショートしかけた頭をむりやり切り替える。
「なんなの、マネージャーって…!」
「総司の言ったとおり、剣道部のマネージャーじゃねーの」
「んなこといきなり言われたって…それにあたしは体操部に…!」
「その体操部だが、体育倉庫に通っていた水道管が壊れて器具がしばらく使えなくなったらしい」
「う、嘘…!」
「一くんが嘘つくと思う?」
「思…いません」
「だよね」
でも、あたしにマネージャーなんて細々した仕事ができるわけない。
「ちなみに、拒否権はないよ」
「なんで!?」
「今回凜をマネージャーに指名したのは顧問の土方先生殿の独断だから」
「――はあ!?」
あの糞教師――!!!
「気に入られてるね、凜」
「断固違う」
「つーか、凜にそんな千鶴みたいな細かい仕事できんのか?」
「ごもっともだけどシバくよ平助」
「大丈夫。凜には力仕事中心でやってもらうらしいから」
「力仕事…?」
「うん。例えば、書類とかドリンク配ったりとかそういう細かいマネージャーっぽいことは千鶴ちゃんにやってもらって、…雑巾がけとか洗濯とか竹刀みがきとかを凜にって」
「雑用じゃんか。やっぱただの鬼畜だね、あの土方先生」
「言うねー凜」
あははと笑う沖田が憎い。
と、ブレザーの裾をちょいちょいと引っ張られて、振り向くと愛しい千鶴がいた。
「千鶴…」
「私からもお願い、凜ちゃん。正直、私力仕事は得意じゃなくて……マネージャー、やってくれる…?」
「…っ、おうよ!千鶴の頼みとあればこの東城凜、マネージャーだろうが雑用だろうが…!」
「言ったな?」
「え」
健気な千鶴の柔らかな手を握って宣言したのはいいが、ぎょっと振り向くと声の主はにやりと口角を上げていた。手には古文の教科書。
「ひ、じかた先生…殿」
「殿とはなんだ。てめえは総司か」
「土方さん、ご要望通り凜を勧誘しましたよ」
「先生、と呼べ、総司。さっさと席着け。もう予鈴鳴ったぞ」
「はーいはい。行こう、一くん。……あ、そうそう。土方先生、その子に手出したら承知しませんよ」
じゃあね、凜。
そう言って沖田は席の近い斎藤くんと歩いていった。
「…はあ…手なんて出すわけねぇだろ」
「先生、千鶴に手出したらあたしも沖田と同じくシバきますから」
「は?雪村?」
「え、違うんですか?…もしかして平助?」
「んなわけねーじゃん。総司は凜を…」
「席着けお前ら」
「「…はーい」」
千鶴がなんだか楽しそうにくすくす笑った。笑顔が眩しいぜ。
「…ったく……出せるもんならとっくに出してるっつーの…」
「は?なんか言いましたか、土方先生」
「なんでもねえよ。いいから席着け」
「はーい。あ、平助、教科書忘れた。見せて」
「お、おう」
「ちっ」
「舌打ち恐いです土方先生」
「うるせえ!席着けっつってんだろーが!」
「わー恐っ」
席に戻って隣の平助と机をくっつける。
板書を始めた土方先生はいつになく不機嫌で、クラス中がビビっていた。
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