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23.宣戦布告は堂々と


「あ…鞄」


走っていった凜の残像が消えかけたころ、地面に転がっていた凜の鞄の存在に気づく。自分のそれといっしょに拾いあげると凜の体の感触を思い出して頬が熱をもった。

自分にはない柔らかな感触。押し付けられた感触は、彼女の女らしい体の線を思うには十分で。


目をつむったまま落ちてきた凜の、少し怯えた表情は可愛くて。

いろんな感情が混じりあって、しばらくは動けなかった。

顔を真っ赤にした凜もいいなあと、空気も読まずに思った僕はもう手遅れ。


暗くなる前にと、二つの鞄を持ち上げて学校を出た。







凜の家は、電車で揺られて数十分のところにあった。

マンションの一室、呼び鈴を鳴らすと出てきた凜。制服姿のままの凜は僕を見て驚く。


「やあ、凜」

「総司…!」

「鞄、忘れていったから。はい」


鞄を差し出すと、凜は戸惑いながらもそれを受け取る。


「ありがと」

「どういたしまして。重かったんだから」

「ごめん…」


赤い顔を歪める凜はかわいくて。
くすぐったい気持ちになる。


「じゃあ、お詫びに日曜付き合って」

「は?」

「アイス、食べたいんでしょ?凜の日曜日、僕にちょうだい」

「……総司と二人?」

「なに警戒してるの?たかがアイスに」

「け、警戒なんかしてない!わかったよ。日曜ね」


また明日、と踵を返した凜。

ドアがパタンと閉まった途端、僕の顔は一気に熱を持った。


「…頑張った…!」


好きな子を誘うことが、こんなに勇気のいることだなんて初めて知った。

僕が何もしなくても、女の子は声をかけてくれていたから、こんな気持ち初めてだ。
今まで軽くあしらっていた女の子たちにお詫びと尊敬の念が浮かぶ。


凜と二人きり。

恋人同士じゃないけど、これはデート…?


どきどきする心臓と、ふわふわ浮き立つ心。
知らぬ間に上がる体温。


新鮮すぎる感覚が、嬉しかった。










本日の戦利品。


アイスを食べる凜がかわいかったこと。

凜の私服姿の破壊力にやられたこと。

隣を歩く凜が思いの外小さいことに気づいたこと。


結果。

僕はやっぱり凜が好きだ。



にやつく顔を気にもせずベッドに体を投げ出すと、携帯が鳴った。


「もしもし」

『総司、俺だ』

「一くんか。どうしたの」

『明日から遅刻指導月間だからな。3回以上の遅刻で指導対象だ』

「そんなことでわざわざ電話くれたの。相変わらず律儀だよね。ま、ありがとう」

『いや。遅れるなよ』

「どうかな。ま、最低限の努力はするよ」


その後部活の話を少しして、僕はふと自慢したくなって口を開く。


「今日、凜とデートしたんだ」

『…!で、デート…?』

「うん。デート」

『東城と、か』

「うん。言ったじゃん、凜とって」

『……』


電話の向こうの一くんの表情を想像して、少しの優越感。
きっと、顔を歪めているに違いない。


「気になる?」

『っ、そんなことは、ない!』

「のわりに吃ってるけどね。ねえ、一くん」


携帯を耳に当てたまま、天井を見つめる。


「僕、誰にも負ける気ないから。凜のこと」

『…!』


受話器の向こうで短く息をのむ音が聞こえた。


『…上等だ。俺も、負ける気はない』


かえってきた声はしっかりしていて。

僕は軽く笑ってから電話を切った。





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